「BHA、ADHD」

(以下は我々が東北大学『加齢医学研究所雑誌』に投稿し、アクセプトされた論文です。52巻1・2号、平成13年1月、21〜25ページ。)

  We report a case of a child born of a thirty-four years old mother. He had one-sided undescended testis, which was removed when he was one-year and 10- months old. The mother felt the strong movement of the fetus after the twenty eighth week of pregnancy. The infant was hyperactive, very demanding to his parents and short-tempered. His language acquisiton was late in spite of any problem of hearing. He often encountered socializing problems with his classmates while he was in the elementary school. He was diagnosed as attention deficit/ hyperactivity disorder (ADHD).
  The mother was consuming tablets which contain vitamins, iron and calcium during her pregnancy. She took it for a total of seven months―from the twelfth week of pregnancy until one month after the infant's birth. The tablets contained butylated hydroxyanisole(BHA), which is normally used as an antioxidant for lipid soluble vitamins.
  Recently, it has been reported that BHA is estrogenic. It is one of the hormonally active agents, which have a potential of causing undescended testis, ADHD and allergic diseases to a child when the child's mother consumes it during her pregnancy. The mother did not take these tablets during her other three pregnancies and the other children did not have any abnormalities described above. We suspect that the abnormalities of the child are due to the pregnant mother's consumption of the tablets which contain BHA.

[英文表題]
 Potential of Undescended Testis and Attention Deficit/Hyperactivity Disorder of the Child Caused by the Pregnant Mother's Intake of Butylated Hydroxy-anisole Added in the Vitamin Tablets」

[表題]
 「男児の停留精巣と注意欠陥多動性障害の原因として疑われた、妊婦が服用したビタミン剤に添加されていた Butylated Hydroxy-anisole 」

[著者名]
 加藤純二、青田百合子、菅野友子

[ランニングタイトル]
 妊婦が摂取したBHAと出生男児の停留精巣・ADHD

[要旨]
 34才の女性が男児を出産した。その子に片側の停留精巣があり、生後1年10ヶ月の時、摘出手術を受けた。妊娠中から胎動が強く、生まれてから男児には多動傾向があった。また要求が多く、怒ったり、興奮しやすく、両親は育児に困った。言語の発達が遅かったが、聴力には異常なかった。小学校に入学して、クラスの他の子供たちとの協調関係ができず、小児科医から注意欠陥多動性障害と診断された。
 母親は妊娠12週から出産後1ヶ月、合計約7ヶ月、妊産授乳婦用ビタミン・鉄・カルシウム剤を1日4錠服用した。この錠剤には脂溶性ビタミンの酸化防止剤として Butylated hydroxyanisole(BHA)が添加されていた。
 1995年、BHAにはエステロゲン活性があり、いわゆる内分泌攪乱物質の一つである可能性が報告された。内分泌攪乱物質は、胎児に作用すると、停留精巣、注意欠陥多動性障害、アレルギー疾患などを引き起こすことが報告されている。この女性は他の3子の妊娠時には上記薬剤は服用せず、その子らには上記のような異常は認められない。この男児の障害が、妊娠中に摂取したBHAによる可能性が高いと考えられた。

[序論]
 妊婦が前回の妊娠で食事が充分摂取できず流産した経験があり、少しでも栄養状態をよくしたいと思い、妊産授乳婦用のビタミン・鉄・カルシウム剤を購入して服用した。その結果、添付文書には記載されていなかったBHAを長期に摂取した。BHA摂取と生まれた男児の障害との間に因果関係が疑われ、症例として報告する。

[両親の既往歴と母親の妊娠経過、BHAの摂取]
 (1)両親の既往歴;
 母親は16才の時に左卵巣嚢腫で手術。薬剤に対する過敏症として、33歳の時、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ、津村順天堂k.k.)に対して薬疹があった。男児出産後、35歳で杉花粉症の発症があった。医療従事者であり、受胎・妊娠時には健康管理に心がけ、食品添加物などはできるだけ摂取せぬよう注意していた。喫煙・飲酒はしない。父親には小児期の多動症を含め、特記すべき既往歴はない。
 (2)母親の妊娠経過、BHAの摂取;
 今まで5回の妊娠歴があり、第1回(女児)と第2回(男児)は正常出産であった。第3回は、母親が伝染性紅斑に感染し、妊娠4ヶ月で自然流産した。本報告の男児は第4回の妊娠・出産である。第3回の妊娠時、つわりが強く、食事摂取が充分でなかった経験から、妊娠11週頃、母子手帳と一緒に渡された副読本に載っていた妊産授乳婦用ビタミン・鉄・カルシウム剤(以下、PS錠、S製薬k.k.)の広告を見て、栄養補給の目的で、薬局から購入した。そして妊娠12週より、添付文書の記載通りに、1日4錠を朝夕毎日休まず服用した。出産後の母乳栄養時期1ヶ月を含めて服用期間は214日間であった。
 妊娠15週から、切迫流産防止のため、イソクスプリン・塩酸(isoxsuprine hydrochloride, 10mg/T, 常用量3〜8T/日、子宮鎮痙剤)を1日3錠、11週間服用した。続いてリトドリン・塩酸(ritodorine hydrochloride, 5mg/T, 常用量3T/日、切迫流早産治療薬)を1日3錠、10週間服用した。なお上記2種類の流早産防止剤は、次の第5回の妊娠時(弟を出産)にも服用した。前者が2週間、後者は22週間の服用であった。
 母親は本報告の男児の妊娠28週ころから昼夜、強い胎動を感じた。それは他の3子の妊娠中と比較して、持続時間が長く、強かった。

[男児の生育歴]
 出生した男児には左側の停留精巣があり、東北大学医学部付属病院の泌尿器科で、生後1年10ヶ月の時、鼠径管内にあった発育の悪い精巣の摘出手術を受けた。
 男児は生後6ヶ月頃から、離乳食を食べ始め、アトピー性皮膚炎が起こり、牛乳と卵にアレルギーがあることがリンパ球刺激試験で確認された。除去食を食べ、アトピー性皮膚炎は消失している。
 乳児期からカンが強く、興奮してよく泣いた。言語の発達が遅かったので、聴力検査を受けたが、異常がないと言われた。2歳を過ぎてから単語がでるようになった。幼稚園では一人遊びが多く、集団行動がとりにくかった。引っ込み思案で、挨拶や自分の気持ちを言葉に出すことが苦手で、よくかんしゃくを起こした。じっと座っていなければならない時に、動いたり、走り回ったりした。
 小学校に入ると、朝の服装などの支度が覚えられず、忘れ物をしたり、学用品をなくすことが多かった。整列ができず、列からはみだしたり、友達に話しかけたりした。先生や友達に注意されると、反抗的になり、友達とのトラブルが多かった。授業中、落ち着きがなく、先生の指示に従うことができず、手遊びが多かった。授業参観で、子供の様子を見て、母親は子供を専門医へ受診させた。
 小児科医は小児神経疾患や学習障害、自閉症などの知的発達障害の専門医で、男児が注意欠陥多動性障害(Attention Deficit / Hyperactivity Disorder、以下ADHD)の不注意優勢型1)の診断基準に合致するとした。小児科医の報告によれば、脳波検査には異常がなく、知能検査(WISC-V)では言語性IQ=95、動作性IQ=97、総IQ=96と知的な遅れはなく、その検査内容からは、言葉の意味理解や状況の理解に弱さが伺え、集団場面での問題が大きくなるのは、刺激を過剰に受け取り、それに対する対処が適切にできないことに原因があろうとのことであった。小児科医は家族と学校関係者にこの病気に対する理解を促し、8才4ヶ月の時からリタリン(methylphenidate hydrochloride)を処方した。男児は服用後、授業に集中できるようになり、友達と落ち着いて話ができるようになったことで、トラブルも減っている。

[考察]

 (1)BHAの摂取量と摂取期間、他の併用薬剤について;
 BHAは脂肪の酸化防止剤であり、医薬品への添加は0.42mg/day以下と規制されている2)。PS錠には脂溶性ビタミンの酸化を防ぐ目的で添加されている。
 BHAの添加量は通常、ビタミンA100万単位あたり10mgであり3)、これだと一日摂取量は0.02mgで、産後1ヶ月を含めて合計214日間の総摂取量は4.28mgと計算される。S社からの資料4)では、添加量はBHA+BHT(butylated hydroxytruene)で示され、通常服用量で一日摂取量は両者合計0.6mgであるという。BHAとBHTの混合比は不明であるが、E社の同様製品では1:4であり3)、仮にPS錠でもこの比であれば、BHAの一日摂取量は0.12mg、総摂取量は25.7mgとなる。
 BHAは魚介乾物だけでなく、脂肪を含む食品に広く添加されており、一日許容摂取量(Acceptable Daily Intake;以下、ADI)は体重50kgとして25mg以下とされている8)。しかし内分泌攪乱物質への胎児の感受性は成人より高いと推定され、上記のADIがそのまま妊婦や胎児に適応できるとは考えられない。
 日本人の食事からのBHAの平均一日摂取量については、いくつかの推定があるが、その値には大きなバラツキがある。1995年の辻らの報告5)によれば、BHAは主として魚介乾物に検出され、平均一日摂取量を0.007mgと推定している。一方、平均一日摂取量を0.169mgと推定する報告6)もあり、大きな差異が出る原因は標準献立に、炒り子、煮干などの魚介乾物が入るか、入らぬかの違いによるという7)。厚生省は1998年6月の会議8)で、成人の平均一日摂取量を0.002mgとしている。
 PS錠の服用によるBHAの一日摂取量を仮に0.12mgとして、食物からの平均一日摂取量0.002mgと比較すると、本報告の女性は、通常の約60倍の量を妊娠中と産後の1ヶ月、合計214日間、摂取したことになる。妊娠中のどの時期にどの程度の量のBHAが作用すると、胎児に障害がおきるのかは全く不明である。しかし本症例の母親は、食事摂取の場合以上のBHAを妊娠中に長期にわたって摂取してしまったことは疑いない。
 ビタミンAの過剰摂取(1日10,000I.U.以上)には催奇形性が警告されている。しかしPS錠中のビタミンA量は過剰ではない(1日2,400I.U.)。また母親が服用した2種類の流早産防止剤の量は、常用量の下限(イソクスプリン・塩酸)か常用量(リトドリン・塩酸)である。この男児の弟の妊娠時にも両薬剤は服用されたが、弟には食品アレルギーを除いて、本男児(兄)に見られたような障害は認められない。また両薬剤ともホルモン剤ではなく、子宮平滑筋鎮痙剤であり、妊婦によく使われているが、胎児・新生児の生殖器系、脳神経系などへの副作用は報告されていない。

 (2)停留精巣とADHDの原因;
 外科的治療の対象となる停留精巣は、出生男児の0.5〜0.7%で9)、精巣の下降には胎児の内部環境、とくに胎児の精巣が作り出す男性ホルモンが寄与することが知られている。
 ADHDは米国の学齢期の子供での有病率は3〜5%と推定されている1)。日本では、関連する学会の最近のトピックスになっているものの、一般人や学校医の関心は低く、家庭でのしつけが悪いことが原因と思われることが多く、本格的な実態調査や専門医による診断・治療への取り組みは遅れている。
 ADHDの原因は未解明であり、男児に多く、単一の疾患単位ではなく、脳要因(胎児期・乳児期の微細脳損傷)を含む身体要因と、心理社会要因の両方が関係して、両者の相互作用の結果として多動性障害などが生じるというのが、現時点での精神科医、小児科医の考え方である。Corborn Tら12)は、いわゆる環境ホルモンが胎児に作用すると、子供に学習障害や、その原因の一つであるADHDが起こる危険性があることを指摘している。またある種の食物、食品添加物がアレルギー疾患とADHDの共通原因になっているという説もある10)。男児は牛乳と卵にアレルギーがあり、学校給食を食べられず、除去食の弁当を持参し食べている。しかし食品アレルギーは他の3子にも認められ、母親にもアレルギー体質が認められるので、この症例では食物アレルギーの原因はPS錠、BHAとは関係ないと考えられる。

 (3)BHAの問題点;
 1995年、Susan Joblingらは、プラスチックの可塑剤である20種類の物質について女性ホルモン作用を調べ、BHAがフタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジブチルより弱いが、エストラジオールとエストラジオール・レセプターとの結合を濃度依存的に阻害し、乳ガン細胞の分裂に促進効果があることを認めた11)。また内分泌攪乱物質の胎児への影響については、容量よりも、胎児の発育段階の特定時期に作用することが重大な障害をもたらす危険性が指摘されている12)。
 BHAは細胞毒・神経毒である劇薬・グアヤコール(ハイドロオキシアニソール)にブチル基がついた化学構造を持ち、グアヤコールよりも脂溶性が増すと考えられる。分子量は180.25と比較的低く、胎盤通過性が予測される。ラットと人でのBHAの1回経口投与後の血中濃度の推移、排泄についての報告があり13)、人では(0.5mg/kg body weight)投与後、4日間で尿と糞便に約48.5%が排出されたという。ラットへの投与(200, 20, 2mg/kg body weight)では、低量の投与ほど、1時間後の脂肪組織中のBHA残留は相対的に多い。しかし、少量頻回の経口投与の、血中、脂肪組織中の濃度推移や胎児への移行性などについては報告がない。
 専門小児科医によれば、本児には、知的な遅れはないものの、言葉の意味理解や状況の理解に弱さが伺え、その特徴が対人関係において、刺激を過剰に受け取り、それへの対処が適切にできないことが、集団生活でも問題行動を起こす一要因となった可能性もある。しかしまた小児科医が指摘した本児の上記のような特徴はADHDという疾患に特有なものとも考えられる。他の2人の男児には、生殖器系障害(停留精巣)、脳神経系障害(言語発達障害、ADHD)は認めらず、本児の上記のような障害の原因が、胎児期に作用したBHAである疑いが強い。精巣は胎生26週頃に鼠径管中に入り、35週前後に陰嚢内に下降する。また母親は妊娠28週目にはすでに胎動を非常に強く感じたという。それでBHAが胎児に影響を与えたとすれば、遅くとも妊娠26〜28週にはその影響が発現していた可能性がある。
  PS錠は妊産授乳婦用であるが、S社は他に、乳児用、幼児用、成人用の合計4種の製品を製造・販売していた。しかしS社は妊産授乳婦用のみを平成6年に発売中止とした。著者らは、胎児や子供への影響を考えると、BHAは妊婦や子供に服用される医薬品には添加されるべきではないと考える。またBHAは伊藤らにより、発ガン性が報告された14)ものの、食品への添加の安全性について、その評価作業は中断している15)。
  症例は1例だけであるが、BHAの危険性を示唆しており、今後、BHAが添加された医薬品の妊婦・胎児への影響についての調査が必要だと考えられる。

[文献]
1) 高橋三郎、大野裕、染矢俊幸訳.精神疾患の診断・統計マニュアル.1996年,医学書院.(The American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fourth edition、1994)
2) 日本医薬品添加剤協会編集.医薬品添加物辞典.薬事日報社.2000年.
3) E社からの回答資料(2000年3月31日).
4) S社からの回答資料(1999年11月29日).
5) 辻澄子、柴田正、一色賢司、加藤丈夫、  神蔵美枝子、西島基弘、林弘道、深澤喜延、黒田弘之、後藤宗彦、坂部美雄、佐々木清司、大内格之、森口裕、内山壽紀、城照雄、伊藤誉志男.「加工食品中の天然に存在しない化学的合成食品添加物の日本人の一日摂取量について」.食衛誌.36(2)、93−101,1995年.
6) Ishiwata H, Nishijima M, Fukasawa Y,Ito Y, Yamada T. Evaluation of the contents of BHA , BHT, propylene glycol, and sodium saccharin in food and estimation of daily intake based on the results of official inspection in Japan in fiscal year 1994. J. Food Hyg. Soc. Japan: 39(2), 89-100, 1998.
7) 桐ヶ谷忠司、片山聡子、宝井辰紀、日高利夫、上條昌弥、鈴木幸夫、川村太郎。「煮干中の酸化防止剤(BHAおよびBHT)の使用傾向」.横浜衛研年報.25、97−100,1986。
8) 厚生省生活衛生局食品化学課主催「食品衛生調査会・毒性添加物合同部会・議事録」平成10年6月1日.
9) 奥山明彦:「停留精巣(停留睾丸)」.今日の治療方針.pp.488. 医学書院.1997.
10) 星野仁彦,八島祐子、熊代永.学習障害・MBDの臨床.新興医学出版社.1992.
11) Susan Jobling, Tracey Reynolds, Roger White, Malcom G. Parker, John P. Sumper ; A variety of environmentally persistent chemicals, including some phthlate plasticizers, are weekly esterogenic. Environmental Health Perspectives 103(6),582-587,1995.
12) Corborn T, Dumanoski D, Myeers JP. Our Stolen Future. Dutton, 1996. (第7章 シングルヒット、第11章 がんだけでなく.長尾力訳.翔泳社発行.1997.)
13) Verhagen, H., Thijssen, h.h.w., Ten Hoor, F., Klermjan, J.C.S.; Deposition of single oral doses of butylated hydroxyanisole in man and rat.Food and Chemical Toxicology, 27(3), 151-158, 1989.
14) Ito N, Hirose M, Shibata M, Tanaka H, Shirai T. Modifying effects of simultaneous treatment with butyltated hydroxyanisole (BHA) on rat tumor induction by 3,2'-Dimethyl 1-4- and N-methylnitrosourea. Carcinogenesis. 10(12), 2255-2259, 1989.
15) 谷村顕雄、藤井正美、義平邦利、伊藤誉志男、城照雄監修.食品中の食品添加物分析法解説書.講談社、1992.


 Junji Kato, Miyachiyo Kato Clinic, 1-2-9 Miyachiyo, Miyagino-ku,
 Sendai City 983-0044

 Yuriko Aota, Tubasa Pharmacy, 1-13-15 Geba,
 Tagajyo City, Miyagi Prefecture 985-0835

 Tomoko Kanno, Pharmacy shop in Suginoiri-ten of Miyagi Co-op.,
 3-3-1 Suginoiri, Siogama City, Miyagi Prefecture 985-0005

[Key Words]
 BHA, ADHD, undescended tesitis, pregnancy, hormonally active agents





ビタミン剤に添加されている
 
BHA・BHT・デヒドロ酢酸ナトリウムの胎児毒性

みやぎ生協 杉の入店・薬店 ◎菅 野 友 子    
つばさ薬局  青田 百合子    
看護婦  渡辺 由美子    
宮千代加藤内科医院  加 藤 純 二    

 一人の母親の相談をきっかけとして、我々はある男児の停留精巣、注意欠略多動性障害の原因は、母親が妊娠中に服用した総合ビタミン剤に添加されていた抗酸化剤BHA(butylated hydroxyanisole)ではないかとする症例を報告した。(加齢研雑誌,52巻,21-25,2001)
 その後、BHAの類似化合物で抗酸化剤のBHT、防腐剤のデヒドロ酢酸ナトリウムにも胎児毒性報告があることから、ビタミン剤におけるこれらの添加物の使用実態を調査した。ビタミン剤を発売している主要12社に問い合わせ、10社より回答を得ることができた。その結果、7社で使用実績があり、多くが産前産後に栄養補給を適応としていた。更に添付文書に記載が無くてもキャリーオーバーとしてこれらの添加物が存在する可能性が高いことがわかった。
 また、ビタミン剤の主成分として含まれるビタミンA自体にも過剰摂取による胎児毒性の報告があり、食事からの摂取も考慮すると常用量服用でも過剰となる恐れがあると考えられる。
 次に別々の小売店で購入した7品の煮干しについてBHAを測定した。添加表示の無い物も含めて3品に添加されていた。

 <考察>
 近年内分泌攪乱物質の研究が進められ、BHAもその作用を有する事が報告されている。この場合の胎児への影響は極微量で発現するものと考えられ、これまでの毒性学的研究法は通用せず、安全域の特定は困難である。従って胎児の安全の為に以下の点が必要であると考える。

  1. 妊婦の服用を前提とする医薬品には胎児に影響する添加物は使用しない。
  2. 添加物の記載にはキャリーオーバーも含める。
  3. 添付文書には添加物の添加量をキャリーオーバーも含めて記載する。
  4. ビタミンAの過剰摂取を避けるべく、内容量を検討する。
  5. 妊婦のカルシウム補給の為に煮干しを勧めることは、BHAが添加されている物がある以上、再検討を要する。

第20回 宮城県薬剤師会学術大会    
平成13年11月18日(日)    
宮城県薬剤師会館3Fセミナーホール    

  

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