『食品添加物と行動異常に関する論文』の紹介


 妊娠マウスとその子供にBHAあるいはBHTを与え、子供マウスの行動面への影響を調べた論文を紹介します。[The Effect of Butylated Hydroxyanisole and Butylated Hydroxytoluene on Behavioral Development of Mice. Developmental Psychobiology, 7(4),: 343-350, 1974]



マウスの行動面の発達に対するBHA(ブチルヒドロキシアニソール)と
BHT(ブチルヒドロキシトルエン)の影響

JOHN D. STOKES and CHARLES L. SCUDDER

Institute for the Study of Mind, Drugs and Behavior, Department of Pharmacology,
Stritch School of Medicine, Loyola University, Maywood, Illinois, USA

  [要約]

 妊娠しているマウスとその子供マウスに、一定期間継続して 0.5%のBHAまたは、BHTを与えると、子供マウスに様々な行動面における変化をもたらした。対照群と比較して、BHAを投与された子供マウスは、探索行動(exploration)が増加し、睡眠と自身の毛づくろいが減少し、学習が遅くなり、帰巣反応(orientation reflex)が鈍くなることを示した。BHTを投与された子供マウスは、睡眠の減少、群居と隔離に誘引された攻撃性の増加、そして深刻な学習能力の欠損を示した。

  [緒言]

 20年以上にわたり、BHAとBHT等の抗酸化剤タイプの食品防腐剤は、アメリカ合衆国及び他の国々で広く使われてきた。 これらの防腐剤とわずかではあるが、毒物学的な明らかな変化が関連しているのではある(例えば、BHTの腹腔内注射後すぐ起こる、肺胞中隔の肥厚と肺全体に広がった組織壊死[Marino & Mitchell, 1972])が、安全性への疑問が投げかけられてきた (Anonymous, 1965)。BHTに関する多くの調査のうち、少なくとも1つの研究が催奇形――無眼球症――を報告している(Brown, Johnson, & O'Halloran, 1959)。しかしながら、この異常はその後の追試では見いだされなかった(Anonymous, 1965)。これらフェノール(石炭酸)系の抗酸化物と、より一般的に関連づけられている他の影響とは、低い成長率(Brown et al., 1959; Johnson & Hewgill, 1961)、肝臓重量の増加(Brown et al., 1959; Gilbert & Goldberg, 1965; Johnson & Hewgill, 1961)、そして高い血清コレステロール値である(Johnson & Hewgill, 1961)。これらすべてが動物の著しい形態上の変化を起こさずに起こる(Brown, Johnson, & O'Halloran, 1959)。
 我々の研究室では、我々は薬やほかの化学薬品が動物に著しい形態上の変化をもたらさずに行動面の発達を変えうることを明らかにした(Abbatiello & Scudder, 1969; Antonita, Scudder, & Karczmar, 1968; Richardson, Karczmar, & Scudder, 1972a; Scudder & Richardson, 1970; Stokes, Scudder, & Karczmar, 1972)。この論文の目的は、「安全」とされる食品添加物の摂取により生じる、行動の微妙な変化を報告することである。このような行動面の変化は、発達途上の生体に、潜行性の見落されやすい問題をもたらすかも知れない。この論文は人間に使用される抗酸化剤の妥当性を問題にするための試みではない。このような研究のための若干のガイドラインがすでに有る(Weil, 1972)が、しかし、現在、食品添加物が行動または発達面の行動に対する如何なる変化をもたらすかの検討がなされていないという事実を強調するものである(Friedman & Spiher, 1971)。

  [実験方法]

 スイス・ウェブスター・マウス(Mus musculus)のつがいを無作為に3つのグループに分けた。第1のグループ(Control群)は粉状のエサ(Purina Rat Chow)とペットミルクを与えられた。第2、第3のグループは第1のグループのエサと同一の、ただし、それぞれ重量で0.5%ののBHA、または、重量で0.5%ののBHT(共にTenox Food Grade 、Eastman Organic Chemicals)の混合したものを与えられた。粉状のエサは、後に小さいパテにする生地を作るため、計量された配分のミルクと混ぜられ、70℃で乾燥された。この温度は十分に食品添加物の沸点(BHAは264-270℃;BHTは265℃)以下である。つがいから得られた子ネズミは、生後21日で引き離された。子ネズミは8匹ずつケージに入れられ、母ネズミのそれと同じエサを与えられた。全てのマウスは21℃の一定温度の部屋で、明かるい16時間と暗い8時間のサイクル(午前6:00時点灯)のもと、任意に水とエサが摂れる状態で管理された。子ネズミが生後6週間に達すると、3つのグループ全てで行動テストが同様に始められた。

  [行動テスト]

それぞれのマウスのグループは「ネズミ都市」実験("mouse city" experiments:Richardson, Karczmar, & Scudder, 1972b; Scudder & Richardson, 1969)で、社会的行動についてテストされた。これらの観察では、生後6−7週のオスとメス6匹ずつが、中央の共用の部屋に管状の通路で接続している6つの小さい部屋にペアで配された(naive pairs)。床はおがくずで覆われ、エサと水は任意に中央の部屋で摂ることが可能である。テストは21℃、40ワットの赤色灯の下で、午前10時から午後4時の間に行われた。ネズミがそれぞれの部屋に置かれて5分後、管状の通路が開かれ、ネズミは相互に接触することを許された。それぞれのネズミの行動は5分間隔で記録された。双方のそれぞれの行動は次のよう分類された:触れ合い(接触)行動、穴掘り、常套的な行動(stereotypic behavior)、静止(freezing)、食餌、持ち運び、毛づくろいを受ける、自身を毛づくろう、他のネズミの毛づくろいをする、睡眠、探索行動。あらゆる攻撃行為が、その1つ1つの攻撃行為の回数とともに記録された。1回のセッションは80分続き (See Richardson et al. [1972b] for further detail.)、各グループ10回のセッションが行われた。
 各グループから生後7週間の10匹のネズミが自動回避調教登頂スクリーン(an automated avoidance conditioning climbing screen: Scudder, Avery, & Karczmar, 1969)で学習能力をテストされた。装置は電気ショックを与える電気配線を巡らした床(グリッド床)を持つ5つの根城となる部屋(ベース部屋)から成り立つ。それぞれの部屋は35℃の傾斜したトンネルによって連結され、それは4つの連続したグリッド(配電網)によって同様に電気ショックを与える。それぞれの部屋の扉はネズミが電気ショックを受ける5秒前に開かれ、ネズミを登らせるために、10秒間隔で電気ショックを与えるグリッド(配電網)部分を次ぎの高い部屋まで次々と続く。ベース部屋で過ごす時間(base time:ベースタイム)と登っている時間(climbing times:クライミングタイム)が記録された。10匹1グループのそれぞれのネズミが、10回連続の試行によって詳細に調査された。
 実験期間中、実際に学習が行われたかについて信頼に足る測定時間を得るため、グループ毎にベースタイム(base time)の最初の5回(250 回の実測)の平均と後半の5回(250 回の実測)の平均とを比較した。回避調教パラダイム(the avoidance conditioning paradigm)での前後半の測定における有意の差は、学習がなされたことを示している。さらに、1回当たりの平均ベースタイム(base time)の分析から、平均時間で、ネズミが電気ショックを回避しているか(平均ベースタイム<5秒)、又は、回避できないでいるか(平均ベースタイム>5秒)を示している。
 各グループから無作為に選ばれた生後9週間の10匹のオスのマウスは、3週間の隔離の後に格闘するためのケージにおいてラウンド−ロビン・テクニック(round-robin technique:Beeman & Allee, 1945; Ginsburg & Allee, 1942) を用いて隔離によって誘引された攻撃性についてテストされた。また、先にテストされなかった3つのグループが、攻撃性の増加が偶然の効果(影響)ではなく、発達上の効果(影響)で有ることを明らかにするため、3週間隔離された。そして最後の7日間、1つのグループが対照のエサをあたえられ、第2、第3のグループが、それぞれBHAとBHTを加えられたエサを与えられた。隔離の終わりに、これらBHAとBHTを投与されたマウスは、又同様に、攻撃性についてテストされた。
 それぞれのグループの生後6週間のオスは、Woodard transistorized photoactometers によって帰巣反応(orientation reflex)と精神活動(psychomotor activity)について調べられた。ネズミは実験装置に1回だけ接触(経験)させた。テストは午前10:00から午後3:00までに行われた (Richardson & Scudder, 1970)。テストは1グループ当たり10匹が個別に(個々に)行われた。ネズミが装置に入れられた後、5、15、30、90分において記録が取られた。最初の30分の記録は帰巣反応を調べるためのものである。最後の60分間は精神活動を調べるためのものである。
 攻撃性に関する物以外、これらの手順で得られたデータは the students' t-test を用いて有意差を得るために分析(検討)した。隔離によって誘引された(引き起こされた)攻撃性を調べるために得られたデータは the Wilcoxon 2-sample rank test を用いて分析(検討)された。

  [結果]

 探査、睡眠、格闘(ケンカ)、毛づくろいの各行動に関しての結果は表1に示した。BHAの投与は、探索行動の有意の(重大な)増加と、睡眠、自身の毛づくろいの減少と関連していた。BHTも睡眠を減少させ、BHAとは違って格闘(ケンカ)を大きく増加させることに関係していた。穴掘り、常套的行動(stereotypic behavior)、静止、運ぶ、食餌、毛づくろいを受ける、他のネズミの毛づくろいをする、接触(触れ合い)行動、そして性的な行動は、BHA、BHTのどちらからも有意の影響を受けなかった。
 表1は調教してテストされた学習能力の結果を示している。対照群のケースでは、ベースタイムの平均の前後半の差は1秒以上に達した。これらの結果はこの装置で得られた基礎実験の結果とよく似ていて、学習が行われたことを強く示唆している。BHAを与えられたグループの前後半の平均ベースタイムの違いは、0.77秒で、若干の学習がなされたことをを示した。BHTのグループでは前後半のベースタイムの平均の違い(相違・差)はたった0.02秒だった。このグループでは学習がなされず、標準的なマウスはその行動を大きく変化させなかった。
 表1で示す学習についてのデータは、それぞれのグループの標準的なマウスが電気ショックから逃れたことを示している。例えば、ネズミは前半5回の試行で電気ショックを回避せず、電気ショックの起こる5秒以後に部屋を離れた。しかし、対照群のネズミは、後半の5回の試行では電気ショックを回避し、例えば、5秒たった時点で起こる電気ショックの前に部屋を離れた。図1がはっきりとこれを示す。 BHTのグループは回避する事を学習せず、BHAのグループは8回目の試行以降に回避ことを学習し、対照群のグループは6回目の試行以降で電気ショックを回避する事を学習した。
 登る時間(climbing times)は投与によって有意の変化をもたらさず、調教の影響が、神経筋の失調、催眠効果、反射減退効果のいずれの相関的要素(性質・事実)でないことを示した。投与されたネズミは、運動失調でも筋肉運動の協調(協同)の障害(減弱)でもなかった。 登る時間(climbing times)は投与によって有意の変化をもたらさず、調教の影響が、神経筋の失調、催眠効果、反射減退効果のいずれの相関的要素(性質・事実)でないことを示した。投与されたネズミは、運動失調でも筋肉運動の協調(協同)の障害(減弱)でもなかった。
 表1は、隔離によって誘引される(引き起こされる)攻撃性についての調査結果である。「マウス都市」実験でのように、長期にBHTを投与されたマウスのグループの方が対照群のマウスよりも大分攻撃的であった。実験直前にBHA、BHTを投与されたグループ(acutely treated experimental groups)は両方とも対照群よりも攻撃的であったが、しかし、その差は統計学的に有意の差ではなかった。
 活動にかんする調査結果は表1に示した。BHAのグループは、帰巣反応( orientation reflex )が対照群よりも際だって小さかった。それぞれのグループは、精神活動(psychomotor activity)以外では違いが無かった。

  TABLE 1.
  ──────────────────────────────────────────
     Study             Measurement         Control          BHA             BHT
  ──────────────────────────────────────────
  
  Mouse City           Exploration      7.95 ± 2.36    9.15 ± 2.25*   7.87 ± 3.11
  Behaviors a          Sleeping          .58 ± 1.57     .00 ±  .00*    .18 ±  .70*
                       Grooming self    1.05 ± 1.05     .72 ±  .80*    .95 ± 1.31
  Observation/Mouse    Fighting          .97 ± 2.15     .68 ± 1.64    4.75 ± 8.52*
  Session
                    A. Mean base
                       time (sec)
                       first 5 trials   5.86 ±  .21    5.77 ±  .68    5.42 ±  .61
  Climbing          B. Mean base
  Screen b             time (sec)
                       second 5 trials  4.72 ±  .23**  5.00 ±  .36*   5.40 ±  .25
                    C. Mean climbing
                       time (sec)
                       per trial        2.75 ± 1.84    3.08 ± 2.19    2.86 ±  .32

                       % Fighters            31              −              62
  Isolation-Induced    Mean rank of
  Aggression C         latency to
                       onset of aggression   53.9            −              35.1**

                       Orientation reflex
                       in counts per hr
                       per mouse             2744           2064*            2440
  Activity d           Psychomotor activity
                       in counts per hr
                       per mouse              575            514              601
  ──────────────────────────────────────────
      *p <.05;  ** p <.005.

  a 「マウス都市」での行動は、サンプル中の1つのマウス当たり生じる行動の平均回数です。1つのグループ当たり、1サンプル12匹のネズミの、10のサンプルを使用した。
  b 登頂スクリーンの研究に示された確率は、そのグループの後半5回の試みが、前半5回の試みと比較された場合に生じるものです。「A」は1つのグループ当たり前半5回の試みの平均を表わす(250回のベースタイム測定)。「B」はは1つのグループ当たり後半5回の試みの平均を表わす(250回のベースタイム測定)。「A」と「B」の間の統計的に有意の差は、学習の存在を表わす。「C」は全10回の試みの登頂時間の平均時間である(500回の登頂時間測定)。
  c ネズミの隔離によって誘引された攻撃性に対するBHTの影響;これまでの研究で、BHAに関しては影響が認められなかった。
  d 精神活動に対する長期にわたるBHAとBHTの投与による影響。

 

 図1. 自動回避調教登頂スクリーン(automated avoidance conditioned climbing screen)で計測された学習能力に対するBHAとBHTの影響。縦座標は平均ベースタイム(秒)を表す。横座標は試行回を表わす。5秒のラインより下のエリアは安全な時間を示す。これはベース部屋のグリッド床が電気ショックを与えない時間である。このエリアで生じる部分は、ネズミが電気ショックを回避したことを意味する。5秒ラインの上のエリアは、ベース部屋のグリッド床が電気ショックを与える時間を示す。このエリアの部分は回避を示す。

  [ディスカッション]

 これらの研究で、BHAあるいはBHTを出生前と出生後に慢性的に投与されたネズミの(いくらかの)行動の特徴を立証した。BHAを投与されたネズミは、投与されない対照群と比べて、探索行動の増加、睡眠の減少、自身の毛づくろいの減少、遅い学習、そして、帰巣反応の減少を見せた。他方、BHTを投与されたネズミは、睡眠と学習能力の減少のほかに、群社会と孤立に誘引された攻撃性の増加を見せた。ネズミが出生前と出生後の両方で抗酸化剤にさらされたので、結果が妊娠した母ネズミのBHA、BHTの摂取によるものか、その子供マウスの摂取によるものか、あるいは両方か、我々は今のところ述べることが出来ない。BHA、あるいはBHTを投与されたマウス間の攻撃性に関する有意差の欠如は、影響が発達上のものであることを示唆している。
 先に示したような行動の変化は、神経伝達物質(neurotransmitters)のレベルが変わるときによく起こる。(Karczmar & Scudder, 1969; Richardson et al., 1972a, b)。予備的な研究は、長期にわたるBHAとBHTの投与が、脳全体のセロトニンとノルエピネフリンのレベルとコリンエストラーゼの活性を変える (Stokes et al., 1972) ことを示した。脳のセロトニンは睡眠しにくいことに関係しているらしいと、複数の研究者(Aprison & Hingtgen, 1972)によって主張されているが、我々の「マウス都市」実験で現在明らかにされた睡眠の減少は、先に説明した通り、セロトニンのレベルの低下に関係しているかも知れない。
 これらの抗酸化剤(防腐剤)が神経ホルモンのレベル、あるいは伝達物質に直接の影響を与えるか否かは、未だ分かっていない。これらの抗酸化剤が脂肪の酸化を妨ぐために工業的に使用されているので、必然的に我々はBHAとBHTが脂質に富む細胞膜に多少の影響を与えていると推測する。恐らく細胞運動性あるいは、伝達物質の貯蔵生理学に関係している可能性が大である。ことによると、抗酸化剤はシナプスの小胞の薄膜を固定させて、そしてそれによって放出を妨げるのかもしれない。
 我々のこれまでの研究では、学習と攻撃性が「症候群」として関連づけきた。すなわち、genera(属・部類・類)とstrain(種族・血統)が近い場合で比較されたとき、あるいは、様々な種類の薬品が特定の strain(種族・血統)で使われたとき (Karczmar, Scudder, & Richardson, in press; Scudder, Karczmar, Everett, Gibson, & Rifkin, 1966)、これら(ネズミ)の行動は並列的に変化した。我々は少なくともBHTが症候群(syndrome)の構成要素(構成)に特異な影響(効果・結果)を与えたことを指摘する。

  [ノート]

 我々は Hines 復員軍人病院の生物統計学研究サポートセンターに、コンピューター設備の使用と統計上の専門的知識を与えてくれた事に感謝する。
 この研究は一部、 Grant GM77 の下、国立衛生研究所の薬理学のトレーニングプログラムによる支援を受けた。

  

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