「BHA; Butylated Hydroxyanisole、
ブチルヒドロキシアニソール」
その発ガン性について


 この物質の発ガン性をめぐっては、紆余曲折の経過がありました。以下、それをまとめたいと思います。


1)発ガン性についての報告の概要

(a) 1983年2月、伊藤信行先生らの報告について――JNCI、つまり米国の国立癌研究所の雑誌(70巻2号343〜352ページ)に「Carcinogenicity of Butylated Hydroxyanisole in F344 Rats」という論文が発表されました。ラットの固形飼料にBHAを0.5%と2%混ぜて、2年間にわたり飼育した結果を報告したものでした。雄雌のラットに2%の濃度の場合、ラットの前胃に、乳頭腫扁平上皮癌が有意に多く発生したといいます。ラットの胃は、食道に近い上半分を前胃といい、内側の表面が食道と同じ「扁平上皮」で覆われています。続く下半分は人間の胃と同様、粘膜上皮で覆われています。
 0.5%でも2%でも、BHAを与えると前胃に前癌状態である Hyperplasia(過形成)が起こっていました。上記のような変化は飼料への添加の濃度が高い方2%の方により多く起こっていたと報告しました。

(b) 1982年、つまり昭和57年の8月――1983年は昭和58年です。上記の論文の基礎データは厚生省の研究班ですでに前年の昭和57年には発表されていたのでしょう。厚生省は昭和57年8月、厚生省告示136号で「BHAの使用をパーム原料油、パーム核原料油のみに限定する」とし、昭和58年2月1日からの実施としました。パーム油とはアブラヤシから採った植物性の油脂で、大豆油の次ぎに大量にインドネシア、マレーシアなどから日本が輸入しているものです。

(c) 外国の反応――米国、英国、およびカナダからの申し入れにより、日本を含め4ヶ国専門家会議が開かれました。またECでも専門家会議が行われました。そしてBHAの安全性に関する評価は分かれました。つまり一致した結論がでませんでした。

(d) 1983年1月、厚生省の対応の変更――1983年つまり昭和58年の2月1日の告示実施を、前日に一時延期という通達を出しました。

(e) 1983年、つまり昭和58年の4月、JECFA会議(WHOの食品添加物専門家会議)――サル、イヌ、ブタを用いた再評価を決定。これはラットの前胃は人間にはない臓器部分なので、前胃がない、つまり人間と類似の構造の胃をもつ動物で再評価しようという意味なのでしょう。

(f) 1986年、昭和61年――伊藤先生らは次に、雑誌JNCIに、「Dose Response in Butylated Hydroxyanisole Induction of Forestomach Carcinogenesis in F344 rats.(Vol.77,No.6,1261〜1265.)」という論文を出しています。
 それぞれ1群50匹のラットに、BHAを飼料に2%、1%、0.5%、0.25%、0.125%と添加し、104日間、飼育したあと解剖し、腫瘍の発生の状況を観察しています。やはり2%投与群では、前胃に扁平上皮癌が有意に多く発生し、前例にパピローマ(乳頭腫)が見られ、これは1%投与群には20%のラットにみられたといいます。前胃の上皮の過形成は添加濃度の高い群ほど頻度が高く、BHAによる前胃の上皮の増殖性と発ガン性は濃度依存性があると報告しました。2%と1%と0.5%の投与群では基礎飼料群より体重増加が有意に少なくなっていました。

(g) 1988年つまり昭和63年――「サル、ブタの食道にBHAの影響が見られた」とのデータが出されました。しかし過形成、癌の発生については「なお検討を要する」との報告が出ました。これを欧米諸国の専門家は「BHAに発ガン性なし」として、「BHAの規制は不要」と結論づけました。その後、WHOの検討組織は自然消滅してしまったそうです。

(h) 1989年、伊藤信行先生らの次ぎの報告について――伊藤先生らは、Carcinogenesisという雑誌に「Modifing effects of simultaneous treatment with butylated hydroxyanisole (BHA) on rat tumor induction by 3,2'-dimethy-4-aminobiphenyl, 2,2'dihydroxy-di-n-propylnitrosamine and N-methylnitrosourea」という論文を発表しました。
 今度はBHAが2%と0.04%含まれている飼料をラットに与えています。ラットには同時に発ガン物質であるDMAB、DHPNを投与し、それらの発ガン性に与える影響を調べています。
 BHAは濃度依存的に、DMABやDHPNの発ガンを「抑制」する一方で、ラット前胃の腫瘍、そして膀胱腫瘍と膀胱ガンの発生を「増加」させるという報告です。BHAの2%が発ガンを起こす投与量で、その50分の1の量は「actual dietary levels close to the human situation」と述べています。

(i) 1990年、デービッド D クレイソンというカナダ厚生省の専門家らがネズミの前胃の発ガン性について総説を出しています。――彼らは以下の理由で、BHAの発ガン性を否定的に評価しています。(合計84の論文を引用しています。)

・前胃で、BHAからTBHQ、TBQ(butylated hydro-quinone, butilated quinone)ができて、それがタンパク質と結合して細胞障害を起こし、二次的な増殖を引き起こすのではないか。
・BHAはエイムスのテスト(大腸菌を用いた試験管内の突然変異性テスト)で陰性。
・イヌ、ブタ、サルを用いた実験で発ガン性が認められない。
・飼料への0.125%以上の添加は、人ではありえない大量投与である。
 以上の理由で、BHAはラットの前胃に特異的な発ガン性を示すもので、人への発ガン性は考慮するに値しないと述べています。

  

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