「総合ビタミン剤と医薬品添加物、 
 BHA、BHT、DHA-Na」

 下枠は毎日新聞 2002年(平成14)年9月19日朝刊に掲載された記事です。

医薬品添加物の基準作成を要望
   薬害防止に取り組む市民団体「薬害オンブズパースン会議」(鈴木利廣代表)は厚生労働省に対し、医薬品添加物のBHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)について、早急に添加量の基準を作るよう要望書を提出した。【須山勉】

 下記の論文は「薬害オンブズパースン会議タイアップ仙台」の5名による共同研究です。

題名: 一部のビタミン含有医薬品に添加されている
butylated hydroxyanisole(BHA)、
butylated hydroxytoluene(BHT)及び
sodium dehidroacetate(DHA-Na)の
量とビタミンAの含有量とそれらの安全性について
 
Title: The Contents of Additives,
Butylated Hydroxyanisole (BHA),
Butylated Hydroxytoluene (BHT) and
Sodium dehydroacetate (DHA-Na)
and that of Vitamin A in some of the drugs
Containing Vitamins : Concern for the Safety


 <抄録>
 
 主として脂溶性ビタミン剤に添加される抗酸化剤 Butylated Hydroxyanisole(BHA)、Butylated Hydroxytoluene(BHT)と防腐・防カビ剤 Sodium dehydroacetate(DHA-Na)には実験動物で胎児への害作用が報告されている。我々は先に、BHAが添加されたビタミン含有薬を服用した妊婦から生まれた子供の障害について症例報告した。今回、我々は、これら添加物のビタミン含有医薬品への添加実態を明らかにするため、ビタミン含有薬を製造販売している12の製薬企業に、その添加実態を問い合わせた。11社より回答があり、医薬品の一日最大用量におけるBHA添加量は4〜1,000μg、BHTは12〜5,660μg、DHA-Naは5.8〜3,670μgであった。また、医薬品の添付文書に添加の記載が無くとも、キャリーオーバーとしてこれらの添加物が存在する場合がみられた。医薬品を服用した場合、食品から摂取するよりはるかに多い量を摂取する場合があることが分かった。医薬品へのこれら添加物の使用について、胎児への安全性の観点から再検討する必要があると考えられた。

 < Abstract >
 
    Butylated Hydroxyanisole (BHA) and Butylated Hydroxytoluene (BHT), antioxidants and Sodium dehydroacetate (DHA-Na), a preservative, are added mainly to the drugs containing lipid-soluble vitamins.
    It has been reported that these additives had adverse effects on fetus of animals.
    We have previously reported a case of handicapped babyborn by a mother who took vitamins contained BHA during pregnancy.
    In order to find the contents of these additives in the drugs, we referred to 12 major companies manufacturing vitamins for the additives. Replies from 11 companies revealed that the daily intake of BHA, BHT and DHA-Na ranged from 4 to 1,000μg, from 12 to 5,660μg, from 5.8 to 3,670μg, respectively, when the drug was taken in maximum daily dose. Informarion on carry-over showed that some of the drugs contained these additives without labeling.
    We conclude that the use and proper contents of these additives should be reviewed from the viewpoint of safety for human embryo.

 <はじめに>
 
 油脂に抗酸化剤として添加されているbutylated hydroxyanisole(BHA)は1982年、伊藤らによってラットの前胃に発癌性があることが報告され1)、FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会がその安全性について再検討を行なった。結局、その発癌性はラットの前胃に限定的であり、人間には前胃がないため、安全とされ、食品だけでなく化粧品、医薬品にも使用されている。
 1995年、英国のジョブリングらは20種類のプラスチック添加剤の女性ホルモン作用を調べ、BHAには比較的弱いが明らかな活性があり、その類似化合物で同じく抗酸化剤であるButylated Hydroxytoluene(BHT)にはその活性がないことを報告した2)
 我々は一人の母親の相談をきっかけとして、その男児の停留精巣、注意欠陥多動性障害(Attention Deficit/Hyperactivity Disorder: ADHD)の原因は、母親が妊娠中に服用したビタミン含有保健薬に添加されていた抗酸化剤BHAではないかとする症例を報告した3)。そのビタミン剤の常用量には、日本人の食品からの一日摂取量(2μg)の127倍の量のBHAが添加されていた。
 医薬品の場合、BHA、BHTは主として脂溶性ビタミンの酸化を防ぐ目的で添加されており、他の脂溶性ビタミン含有医薬品にも添加されている可能性があると考えられた。そこで、我々は脂溶性ビタミンを含む医薬品へのBHA、BHTの添加実態を明らかにするため、添加されている医薬品名と添加量を調査することにした。同時に、発癌性などが問題になっている合成着色料と日本以外のほとんどの国では食品添加物として使用が許可されておらず、催奇形性がある防腐・防カビ剤のデヒドロ酢酸ナトリウム(DHA-Na)の添加実態、また過剰摂取で催奇形性があるビタミンAの含有量についても調べた。

 <方法>
 
 生協が取り扱っているビタミン含有薬を製造販売している12製薬企業に抗酸化剤(BHA、BHT)、防腐・防カビ剤(DHA-Na)、合成着色料について添加されている医薬品名、添加量(添加量/医薬品重量と医薬品1単位の重量)をキャリーオーバーも含めて情報提供を求める手紙を2001年2月から6月までに送った。そして11社より回答を得た。

 <結果>
 
 合成着色料については添加量は「ごく微量」との回答がほとんどで、量についての回答は2社のみであったので、今回の報告では省いた。BHA、BHT、DHA-Naについては8社で添加実績があった。今回、回答した製薬企業はすべてビタミン剤を製造販売している主要企業で、回答からまとめた添加実績はビタミン含有医薬品での全体像を反映していると考えられる。

(表1)各ビタミン含有薬を摂取した時の添加物とビタミンAの一日最大摂取量


一日最大摂取量:μg
会社名 商品名 BHA BHT DHA-Na V-A(IU)
[医療用]
A社 A末* 1,000   4,000   100,000
A錠 550   5,660   100,000
A滴* 533   500   3,670   100,000
A注* 500   526   100,000
B社 PA末* 160   640   44.2 5,000
C社 H1錠 500  
H2錠 750  
[一般用]
D社 G錠* 420  
E社 C錠* 300  
F社 PNシロップ 204   1,950
〃社 P錠* 60   240   14.5 2,000
G社 Q錠* 60   240   10   2,000
E社 MV錠* 60   240   5.8 2,000
F社 PY顆粒 24.7 99   2,250
A社 ADカプセル* 20** 20** 4,000
C社 SG錠* 4** 12** 2,000
H社 Yカプセル* 3,000  
E社 CA顆粒* 100  
B社 PH錠* 43.5 2,000
〃社 F錠 135   2,000
F社 Vカプセル 1,500  
〃社 V細粒 1,500  
 
一日最大摂取量は、添付文書の記載と添加量から計算した。
* 妊婦適応あり  ** キャリーオーバー

 ビタミン含有薬の一日最大用量を服用した場合の三つの添加物の摂取量を、添付文書の記載から計算したビタミンAの含有量とともに表1にまとめた。多くの品目が「産前産後の栄養補給」を適応としていた。今回の調査結果からは、BHAとBHTについてはどちらをどの程度の量、どのような比で添加するかについての統一的な基準はないと思われた。BHAの添加量は、下限が4μg、上限は1,000μgと巾があり、我々が前の症例報告で問題にした医薬品でのBHAの摂取量は255μg/dayであったが、それを越える医薬品は6品目あった。BHTの添加量は、下限が12μg、上限が5,660μgと大きな巾があった。DHA-Naの添加量についても下限は5.8μg、上限は3,670μgと非常に大きな巾があった。DHA-Naはその抗菌作用のため生薬成分を含むものに多く添加されているのではないかと予想したが、生薬成分が存在するとDHA-Naの添加量が多いという訳ではなかった。キャリーオーバーについて回答した会社は3社で、この回答により、医薬品の添付文書に記載が無いものでも、キャリーオーバーとしてこれらの添加物が存在することが分かった(表2―1、2、3)。

(表2−1)キャリーオーバー:F社 PNZ錠(現在、製造中止)


一日最大摂取量(μg)
BHA BHT V-A(IU)
自社添加量 240 0
キャリーオーバー 15 15
合 計 255 15 2,400

(表2−2)キャリーオーバー:A社 ADカプセル


一日最大摂取量(μg)
BHA BHT V-A(IU)
自社添加量 0 0
キャリーオーバー 20 20
合 計 20 20 4,000

(表2−3)キャリーオーバー:C社 SG錠


一日最大摂取量(μg)
BHA BHT V-A(IU)
自社添加量 0 0
キャリーオーバー 4 12
合 計 4 12 2,000

(表2の1,2,3の一日最大摂取量は、添付文書の記載と添加量から計算した。)


 <考察>
 
 BHAについてはジョブリングらによって報告された女性ホルモン作用はその後、追試確認されている4)。内分泌攪乱物質は胎児に作用することで生まれた子供に、生殖器の異常(尿道下裂、停留精巣など)、行動異常(多動、注意散漫、衝動的行動など)、学習障害、アレルギー性疾患などを引き起こす危険性が指摘されている5)。内分泌攪乱物質の胎児への影響は妊娠時期のタイミングによっては極微量で発現するものと考えられ6)、BHAの医薬品や煮干しなどの食品への添加については、妊婦・胎児への安全性の面から再考すべきと考えられる。
 BHTについては、実験動物で発癌性(プロモーター作用)が報告され、妊娠ラットに投与した場合、子供ラットに少数ではあるが単眼症の発生率が増加するという報告がある7)
 動物実験で、BHAあるいはBHTを添加した飼料で妊娠マウスと生まれた子供マウスを育て、子供マウスの行動異常を調べた報告がある8)。それによると、BHAは子供マウスに、探索行動の増加、睡眠時間の減少、自身の毛づくろい時間の減少、学習の遅れ、帰巣反応の低下を認めた。BHTは子供マウスに、学習の無獲得、帰巣反応の低下、隔離による攻撃性の誘導などを認めた。BHTには女性ホルモン作用はないものの、BHAと同様に妊婦・胎児への安全域について再考すべきと考えられる。
 デヒドロ酢酸ナトリウムの急性毒性はラット(経口)で LD50 が 0.53〜0.61 g / kg(BHAは 2.2〜5.0 g / kg、BHTは1.7〜1.97 g / kg)と比較的高く9)、米国ではポストハーベスト農薬として、いちごやバナナへの使用が許可されている。日本ではチーズ、バター、マーガリン(0.5g/kg)のみに添加が許可されている。
 塩原10)らの報告によると、妊娠マウスにDHA−Naを投与すると、胎児死亡率の増加、体重低下、過剰肋骨、胸骨体化骨遅延などを起す。田中11)らによると、妊娠ラットに投与すると、胎児死亡率の増加、体重低下、胸骨・後頭骨・頚椎の奇形と化骨遅延を起す。DHA−Naは特定の医薬品に高濃度に添加されており、妊婦の適応には問題があると考えられる。
 ビタミンAは10,000 IU以上の過剰摂取に催奇形性が認められており、ビタミンAを含む医薬品の添付文書には、「禁忌」として「妊娠3ヶ月以内又は妊娠を希望する婦人へのビタミンA5,000 IU以上の投与」と書かれている。日本人のビタミンAの1日所要量(平成12年第6次改定)は、成人男性:2,000 IU、成人女性:1,800 IU、妊婦:2,000IU、授乳婦:2,800IUである。しかし日本人の1日摂取量は所要量の1.5倍と言われ12)、欠乏症は極めて少ない13)。医療用医薬品は医師の判断で使用されるので、妊婦への過剰投与は配慮されると考えられる。しかしビタミンAを含む一般用医薬品やサプリメントは連用される可能性が高く、過剰摂取となる恐れがある。
 表3に今回調査した添加物とビタミンAについて、日本人における食品からの摂取量14)と一般用ビタミン含有薬からの摂取量を比較してまとめた。食品からのBHA、BHT、DHA−Naの1日摂取量が減少しているのは、食品業界における使用の自主規制や消費者運動などによるものと考えられる。しかし一般用ビタミン含有薬を服用した場合、食品から摂取する以上の、かなりの量の添加物を摂取する場合があることが分かる。1994年で、食品のマーケットバスケット方式による一般的な食生活からの1日摂取量と比較すると、医薬品ではBHAが210倍まで、BHTが45倍まで、DHA-Naでは15倍までの添加物をビタミンとともに摂ることになる。食品からの摂取は減少しつつあることを考えると、医薬品添加物の危険性について再検討する必要があると考えられる。
 妊婦はつわり症状などのために栄養摂取に不安を持ち、総合ビタミン剤を服用することが多い。また胎児の成長に伴いカルシウム、鉄分などの需要が増すことから総合ビタミン剤には同時にそれらが加えられていたり、疲労や体力低下に対して有効であるとして生薬が加えられていたりするものがある。
 医療用医薬品への添加物の記載は1989年から、一般用医薬品については1993年から実施されたが、その添加量及びキャリーオーバーについては記載義務がない。また添付文書からはそれら添加物の胎児毒性を知ることはできない。一方、添付文書の「適応症」に、「食事からの摂取が不充分な際の補給:妊産婦、授乳婦、乳幼児、消耗性疾患など」と書かれているのは、胎児毒性のある物質を妊産授乳婦に勧めることになる。
 日本で医薬品、特に妊婦が服用する可能性があったり、妊婦への適応がある医薬品で、これらの添加物が添加量の記載や、危険性の警告がないまま使用されていること、また非常に添加量が多い医薬品があることには、大きな問題があると考えられる。従って我々は、内分泌攪乱物質や胎児毒性・催奇形性を有する物質による胎児への暴露を避けるために、以下の対策が必要であると考える。

1.  添付文書には添加物の添加量をキャリーオーバーも含めて記載する。
2.  妊婦が服用する可能性がある医薬品にはBHA、BHT、DHA-Naなど胎児に影響する可能性のある添加物は使用しない。抗酸化剤、防腐・防カビ剤として代替性がない場合は、妊婦の使用を禁忌とする。
3.  医薬品製造における添加物の使用について、安全性を考慮し、できるだけ低い添加量での統一基準作りをする。
4.  一般用医薬品ではビタミンAの過剰摂取を避けるべく、その含有量を減らすか、妊婦の服用を禁忌とする。


(表3)食品と一般用ビタミン含有薬からの1日摂取量の比較


1日摂取量(μg)
BHA BHT DHA-Na V-A(IU)
Acceptable Daily Intake 25,000 25,000 (?)
食品による1日摂取量14)     
1994年
1997年
 
2
0
 
66
13
 
100
0
 
2,602
2,832
医薬品による1日摂取量 4〜420 12〜3,000 5.8〜1,500 1,950〜4,000
 
参考:妊婦のV-Aの1日所要量は 2,000 IU            
            (?):DHA-Naについては国際的な安全性評価がない。


 <参考文献>
 

1) Ito N., Fukushima S., Hagiwara A., et al.: Carcinogenicity of Butylated Hydroxyanisole in F344 rats. JNCI 1983: 70(2):343-352.
2) Jobling S., Reynolds T., White R.,et al.: A variety of environmentally persistent chemicals, including some phthalate plasticizers, are weakly estrogenic. Environmental Health Perspectives 1995: 103 (6); 582-587.
3) 加藤純二、青田百合子、菅野友子:男児の停留精巣と注意欠陥多動性障害の原因として疑われた妊婦が服用したビタミン剤に添加されていたButylated Hydroxyanisole.加齢研雑誌2001:52: 21-25.(論文中にはビタミン剤へのBHAの添加量が食品からの一日摂取量の60倍と書かれているが、その後キャリーオーバーを含めて127倍だったことが分かった。)
4) 大久保智子、長井二三子、佐藤かな子・他:培養細胞を用いた内分泌かく乱作用物質の検索.日本内分泌撹乱化学物質学会 第二回研究会要旨1999.50p.
5) シーア・コルボーン、ダイアン・ダマノスキ、ジョン・ピーターソン・マイヤーズ:奪われし未来、第9章死の年代記、第10章運命の転機、219-295p、1996(長尾力訳)翔泳社、1978.
6) 文献5)第7章シングルヒット173-189p.
7) Brown,W.D.,Johnson,A.R.,O'Halloran,M.W.: The effect of the level of dietary fat on toxicity of phenolic antioxidant:Aust.J.exp.Biol.Med.1959:37: 533-548.
8) Stokes J.D., Scudder C.L.: The Effect of Butylated Hydroxyanisole and Butylated Hydroxytoluene On Behavioral Development of Mice. Developmental Psychobiology 1974: 7(4): 343-350.
9) Spencer H.C., Rowe V.K., McCollister D.D.: Dehydroacetic acid(DHA)1.Acute and chronic toxicity. J. Pharmacol. Exp. Therap. 1950:99: 57-68.
10) 塩原正一:Sodium Dehydroscetate (DHA-Na)の経口投与による妊娠マウスおよび胎仔に対する影響. 日本公衛誌1980:27(2), 91-97.
11) 田中悟、川島邦夫、中浦慎介・他.デヒドロ酢酸ナトリウムのラットにおける催奇形性に関する研究.衛生試験所報告1988:106: 54-61.
12) 健康・栄養情報研究会編:栄養素などの摂取状況:国民栄養の現状(平成11年国民栄養調査結果).第一出版、31p、平成13年.
13) 渡辺敏明.ビタミンを摂りすぎると:体の科学.217:32−41,2001年.
14) 食品添加物研究会編:第2章 摂取量調査総括・概要.『あなたが食べている食品添加物』(本編・資料編)2001(日本食品添加物協会発行)

  

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