「家族はどうしたらよいのか」


1)一般論として

○ まず診断を受けましょう。酒を飲んで問題を起こしているいる本人がアルコール依存症の専門病院を受診することです。
○ 治療を受ける、受けない、あるいは、入院する、しないは、今のところは考えないでいいのです。

2)受診を拒否したら

○ 重症であればあるほど、専門病院への受診をいやがります。そのような時、家族が相談に行けばよいのです。専門家は家族から状況を聞いて、何らかの対策を提案してくれるはずです。

3)家族が工夫しても、どうしても受診に応じない時は?

○ 酒を飲み続けるか、治療を受けるかは、本人次第です。そう割り切って、自分が本人の酒を飲む手助けをしていないか、よく考えてみましょう。
○ いやだいやだと思いながらも、酒を買い与えていたりしていませんか。怒鳴り声で自分の行動が本人の意のままに操られていませんか。

4)次にはどうしたらいいでしょうか?

○ 「このままではいやだ」という決意を示すこと。そして「酒を飲む手伝いだけはもうごめん」ということを本人に宣告しましょう。
○ 同じことを繰り返す生活から脱却しましょう。かなりの覚悟がいります。しかし勇気をもって実行することです。

5)そうするとどんなことが起こるでしょうか?

○ 本人は必ず困ってあの手この手で、酒を飲む算段をします。また家族が手助けをしないと、勝手な行動をとります。そして必ず行き詰まります。それは例えば、会社への欠勤の連絡ができなかったり、飲んだ後始末が自分でできなくて、不潔になり、飲みつぶれたり、へばったりします。
○ そしてどうしようもなくなった時が、治療の説得に応じる可能性が生まれるときです。

6)この時、してはならないこと

○ 点滴などして「飲める体にもどしてくれるだけ」の一般病院への受診はよしましょう。やはりアルコール依存症そのものを治療の対象にする専門病院がいいのです。

7)離脱症状がひどくなったら

○ 離脱症状には飲んだ翌朝に起こる「指の震え、頻脈、発汗」などの軽いものと、酒を止めてから3日目ごろから始まる「振戦せん妄」というひどいものがあります。重症のアルコール依存症では、後者が起こってきます。「ひどい不眠、いらいら、誰かが悪口を言っているのが聞こえてくる、ブツブツ言って歩き回る、虫が這っている」などという様子が見られたら、すぐ本人に受診をすすめるか、それが不可能なら、危険を避ける方法を考えておきます。(続く)
○ 暴力があれば、迷わず警察を呼びましょう。最悪の場合は逃げることです。


 

 アルコール依存症、介入の現実(以下は月刊『砂時計』へ投稿した原稿です。)

 数年前のこと。深夜に携帯電話が入った。数回、相談に来ていた女性からだった。夫の暴力があり、警察を呼んだが、警察官が帰ってしまいそうだという。私は警察官に代わってもらい、事情を話し、男性を一晩「保護」するか、アルコール依存症の専門病院へ連絡して入院させてほしいと頼んだ。警察官は「暴れていない人を保護するわけにはいかない。病院への移送は警察官の仕事ではなく、救急隊員の仕事だ」と言う。それでも警察官に待機してもらい、アルコール依存症の専門病院へ電話をかけた。当直の看護婦さんがでた。事情を話して、入院させてほしいと頼んだ。しかし、「アルコール依存症の専門医が当直でない。その男性が治療を受ける意志がないなら、入院をさせるわけにはいかない」と言う。再び警察官と話した。「あなた方が帰ったら、おとなしく見える当人は豹変し、家族三人への暴力が再開するでしょう。本人を保護できないなら、家族を保護してほしい。」 警察官は、「入院させることができるなら、病院へ運ぶ労はいとわない。しかしこの状況で、家族を警察が保護することはできない。」
 その晩、家族は暴力に対していつものようには屈しなかった。しかし、警察官は帰ろうとしているし、受診にはいたらなかった。私は「家族三人で逃げたらどうか」と言った。「家に火をつけられたらどうしよう」と言う。「火をつけたら困るのは本人だ。ここで屈したら、もとの生活に戻ってしまう。明日、警察に行き、事情聴取を受けて、今まで暴力を受け続けてきて、もう限界だということを訴えるといい」と言った。
 家族にとっては無責任ともとれる提案だったであろう。泊まるところはあったのだろうか。その後、電話も相談も途絶えた。強い風が吹き荒れる冬の晩であった。

(追記;現在、家庭内暴力の告訴については、警察は比較的、好意的に事情聴取に応じてくれます。弁護士さんを依頼する必要はありません。身体的外傷については、できるだけ早い内に外科、あるいは整形外科を受診して、診断書をもらっておきましょう。)

  

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