「子供と女の子の飲酒、Q&A」


> e−mailで次のような質問がありました。(平成13年1月)

> > この春晴れて卒業! 大学進学することになったんだけど、
> > 新歓コンパがちょー楽しみ! でも、毎年「急性アルコール
> > 中毒で学生死亡」なんてニュースが流れる。。。
> > 無理矢理飲まされたりするらしいけど、大丈夫なのかなあ?
> > どれくらい飲んだらやばいの? 死んじゃう可能性ってけっ
> > こうあるものなの?

> そこで教えていただきたいこと

> > 1)「未成年の飲酒の危険性について」
> > 2)「体の大きさと酒量の関係について」
> > 3)「お酒の強い、弱いって遺伝なの?」
> > 4)「倒れた場合の 応急処置について」
> > 5)「一気飲みの危険性について」
> > 6)「お酒を飲むときの注意点」(チャンポンで飲まない方がいい)
> >    →その理由など
> > 7)「急性アルコール中毒とはどんな病気なのか? どうして死に
> >    至ることがあるのか?」
> > 8)「ただの泥酔状態と急性アルコール中毒との違い、見分け方は?」
> > 9)「急性アルコール中毒って、後遺症はある?」
> > 10)「どうしても飲まなきゃいけない時、酔いにくいお酒ってある?
> >    飲む前にしておくべきことって?」 の10点です。その他にも、
> >   「若い女の子がお酒を飲む上でぜひ知っておいた方がいいこと」
> >    がありましたら、あわせてお教えいただけると幸いです。



 私からの回答は以下です。

1) 未成年者の飲酒で危険なことは、まず第一に急性アルコール中毒です。未成年者は自分が酒を飲める体質なのか、飲めない体質なのかをまだよく知らない人が多いのです。飲めない体質の人が、アルコールを多く飲むと、急性アルコール中毒を起こしやすく、命に危険があります。その典型的な例がいわゆる「イッキ飲み」による死亡です。

2) 体の大きさと酒量、あるいは男女差は酒量とはそれほどの関係はないといっていいでしょう。酒量に最も関係するのは、アルコール代謝の能力で、これは遺伝的なものです。

3) アルコールは胃腸から吸収されると、酸化されてまずアセトアルデヒドになります。これは非常に心臓毒性の強い物質ですが、酒の強い体質の人では、酵素によってすぐ酸化され、酢酸になり、あとはいわゆるTCAサイクルという代謝系でさらに酸化・分解され、最終的には炭酸ガスと水になります。他方、酒に弱い体質の人では、アセトアルデヒドを代謝する酵素の働きが弱く、これをすばやく処理できないのです。この「アセトアルデヒド脱水素酵素」は東洋人の約4割で活性が遺伝的に弱いこと、白人や黒人ではほとんどの人が遺伝的に活性が強いことが分かっています。

4) 倒れた場合の応急処置は、まず大声で呼んで、反応がなければ、すぐ救急車を呼ぶことです。血圧が下がるのは、心臓の拍出力が落ちていることや、末梢の血管が拡張しているからなので、毛布などで保温します。嘔吐したものが喉にたまっていたら、体をやや横向きにして、手ぬぐいを指にまいて口の中に入れ、掻き出して取り除きます。頭を少し後ろへそらして、舌の根元がのどをふさぐのを防いで、呼吸を樂ににします。さらに吐きたい様子があるなら、体を横向きからややうつむけにして、下からお腹に手を当て、上からは手で背中をこすったりして、吐かせます。お腹にはまだアルコールが入っていることが多いので、吐かせるのは有効な手当です。

5) イッキ飲みは、酒に弱い体質の人がやると、急激にアセトアルデヒドが上昇するので、命にかかわります。空腹でやると、さらに危険で、日本酒で2合、ビールで大瓶2本程度でも死亡することがあります。

6) チャンポンで飲まないほうがいいということには、あまり医学的な根拠はないと思います。それは「おおくは飲まない方がいい」ということだと思います。

7) イッキ飲みのようなことをすると、たまったアセトアルデヒドによって、顔が赤くなり、動悸がして、さらには気持ちがわるくなったり、吐いたり、立っていられなくなり、血圧が下がって、ついには、意識がなくなり、死亡することも起こるわけです。これが急性アルコール中毒です。酒に強い体質の人にも起こりうるのですが、弱い体質の人に比べ、4,5倍以上のおおい量のアルコールを飲まなければ起こりません。

8) 泥酔とはアルコールの影響が大脳の皮質からさらに運動をつかさどる小脳などの領域まで深く及んだ状態をさします。一般的には、常習的に酒を飲むうちに、満足な酩酊感が得られなくなり、理性的な言動や歩行ができなくなるまで、深酒をしてしまう状態が多いのです。どちらかというと、犯人はアルコールそのもので、酒の強い体質の人に、長い飲酒習慣の末に起こります。
 急性アルコール中毒は先にお話したように、泥酔のように見えるものの、犯人はアセトアルデヒドで、主として心臓毒性による虚脱状態で、酒に弱い体質の人に起こりやすく、それもまだ自分が酒に弱い体質であることを知らない、初めて酒を飲んだような若い人に起こる状態です。

9) 急性アルコール中毒の後遺症は、危篤に近い状態になった人なら、脳の障害は残ると思います。しかし死ぬか快復するかは短時間で決まることなので、快復したら障害が残ることは実際にはまれなことでしょう。

10) 酔いにくいお酒とは、アルコール度の低いお酒ということになるでしょう。したがってウィスキーや焼酎よりは、ビールのほうが、安全でしょう。お腹に食べ物が入っていれば、酔いにくいのですが、それで油断してつい量が増えてしまうことがあるので、注意が必要です。
 私は酒が弱く、大学生になって初めて酒を飲んだのがウイスキーでした。茶碗に1杯飲んで、トイレで意識を失い、気が付いたら酔いはさめていました。これが冬や屋外だったら今、こんな記事を書いていることもなく、今は灰になって骨壺におさまっていたでしょう。今、宴会などに長時間、いるきには、お酌は受けるだけにして、飲むのはビールかウーロン茶をちびりちびりと飲むようにしています。

追加; 女の子がお酒を飲む上でぜひ知っておいた方がいいことは、男性より、女性にいろいろな意味で、アルコールが危険だということです。酒に強い体質であれば、飲む機会は増え、結局は男性より一人酒になりやすいと思います。胎児には障害が起こり得るし、アルコール依存症に進む早さも、死亡年齢も男性よりも早いのです。私は医院に若い女性の軽症のアルコール依存症が増えていることを統計で確認しています。中年女性の重症のアルコール依存症の患者さんの断酒のむずかしさや、孤独死の検死をして思うことは、日本の酒事情、特に女性が酒の恐さを知らないことは危険なことだと思っています。人生が破滅しても、多量飲酒者は酒類企業にとってはいいお客さんなのです。金持ちも路上生活者も、酒一本に支払うお金は同じです。コマーシャルに踊らされて、イッキイッキとはやしたてられて、死亡事故が起こっても、企業は何の責任もとってくれません。

  

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