論文批判「歯科疾患における健康格差」相田潤、月刊保団連1252号(2017,12)
『月刊保団連』という雑誌にフッ化物洗口の有効性とそれによる地域間の健康格差の是正という趣旨の論文が掲載されました。まず原文を以下に紹介します。
問題1.有効性だけを取り上げて、集団フッ化物洗口の事業としての「必要性」や「有害性」を問題にしていない。子どものむし歯の数は順調に減り続けており、集団フッ素洗口を始めなければならない必要性は低い。
問題2.急性中毒症状の起こる可能性や、長期にフッ化物洗口を行うことによるフッ化ナトリウムの摂取量とその慢性の有害性については全く考慮していない。慢性中毒症状としての斑状歯、骨肉腫などの発がん性、知的能力への悪影響を全く考慮していない。
問題3.日F会議のデータを利用しているが、研究開始の2年前、平成20年の各都道府県の子どもの平均むし歯数は、その時点での各都道府県のフッ化物洗口の実施率の間には全く相関性がなく、むし歯の多寡には何か別の要因が影響を与えていると予想される。それなのに何故、日F会議のデータを用いて、フッ化物洗口の有効性を証明しようとしたのか、 分からない。下図の左は日F会議がかつて提示した図。下図の右はそれにフッ化物洗口の実施率を加えて提示したもの。
問題4.イギリスにおいて、健康教育の介入後、特に富裕地域で歯肉出血とプラークのある者の割合が低下している。これは健康教育の効果の重要性を示している。フッ化物洗口の効果と言っているむし歯減少に、同時に行われた健康教育の効果が混入、あるいは健康教育の効果そのものが出ているのではないか。つまり相田先生の論文ではフッ化物洗口の効果と健康教育の効果を区別するための計画がない。そして、むし歯の数とその程度が科学的に正しい方法でカウントされ、集計されたというたということへの言及がない。
問題5.フッ化物洗口を始める前、則ち平成12年、文科省統計で12歳児の平均むし歯数は2.65本であり、10年後は1.29本とフッ化物洗口をしなくても1.36本の減少がある。佐賀県がフッ化物洗口を急拡大させた効果は同時に行われた衛生教育が効いている可能性がある。佐賀県では2008年の1.4本が2010年、1.0本になったが、この程度のむし歯数の減少だとこれ以上、全児童にフッ化物洗口を続ける努力は無意味でないか。
問題6.養護教員、クラス担任、子どもが費やす時間を考えれば、年度始めにむし歯に関する健康教育をやるとか、特にむし歯数の多い子ども(兵庫県の加藤擁一先生の論文にあるいわゆる口腔崩壊の子ども)について、個別にその原因を調べ、衛生教育を行えば、フッ化物洗口に多大な労力と時間を割き、教員に過剰な労力を掛けることがないと思う。
宮千代加藤内科医院(仙台市)のホームページ