フッ素とフッ化物の基礎知識


 フッ素とフッ化物とはどんな化学物質なのかについて、高校生が使う化学の参考書や化学辞典には以下のように書いてあります。フッ化物は水道水に添加する場合は0.8ppm 、洗口の場合には230ppm、歯面塗布に用いる場合は 9,000ppm です。水道水フッ素化の場合、フッ化物は非常に低い濃度なので、毒性は低くなる訳ですが、それでもその危険性は濃厚な状態でどんな化学的な性質が あるのか、そういうところからまず考えなくてはなりません。

フッ素:F

  1. ホタル石(CaF)、氷晶石(NaAlF)などの化合物として天然に存在する。遊離して存在することはない。
  2. 淡黄色の気体で激しい刺激臭があり、猛毒である。
  3. 化合力はClよりさらに強力で、希ガス以外のすべての元素と化合する。
  4. 水素とは低温・暗所においてすら爆発的に化合する。
          H2 + F → 2HF
  5. 木材やゴムはフッ素気流中で燃焼を起こす。
  6. これを貯蔵するには銅または鋼鉄の容器を用いる。これらの金属を用いる事ができるのは表面にできるフッ化物が幕を作り、内部を保護するためであると考えられる。

 水道水に添加されるのはフッ化化合物(フッ化物、Fluorides)です。そこでそのフッ化化合物の最も基本的なものであるフッ化水素とフッ化ナトリウムについて調べてみました。

フッ化水素:(HF)n、略してHF

  1. ホタル石(CaF)の粉末に濃硫酸を加え熱して製する。このとき容器は鉛製のルツボを用いる。
      CaF + HSO → CaSO + 2HF↑
  2. 無色揮発性の液体で19.4℃で沸騰し、刺激臭ある気体となる。蒸気は猛毒である。
  3. フッ化水素の分子は常温では水素結合により数個の分子が会合している。フッ素は電気陰性度がきわめて大きく、HFの共有電子対を強く引きつける結果 FはFに、HはHに帯電し、これによって隣の分子とゆるい結合(水素結合)を起こすからである。会合したフッ化水素分子は下図のようにジグザグの鎖状になっているといわれる。しかし70℃以上では乖離し、HFとなっている。

  4. 水にはきわめてよく溶ける。水溶液はフッ化水素酸といい、弱酸性を示す。フッ化水素酸が理論的には強酸であるべきにもかかわらず、実際には弱い酸であるのは、水素結合により、HF数分子の会合で(HF)n ができているためである。
         (HF)n → H + Hn-1n
  5. 石英・ガラス・陶磁器を侵す。この特性を利用しガラス器に目盛を刻んだり、電球の内面つや消しなどに用いる。
         SiO + 4HF → SiF↑ + 2H
    フッ化ケイ素SiF4は無色刺激臭の気体で、湿気ある空気中で白煙を生じる。
    フッ化水素酸の蓄え方───フッ化水素は金属やガラスを容易に侵すので、通常のガラスビンや金属製のカンに保存はできない。ポリエチレン製のビンに貯える。
  6. 激しい毒性があり皮膚につくとなおりにくい炎症を起こすから取り扱いに注意を要する。
  7. 白金・金以外の金属を侵し水素を発生する。
  8. 冷媒としてのフレオン、合成樹脂の成分とする。


フッ化ナトリウム:NaF 分子量=41.99

  1. 製法:水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムを当量のフッ化水素酸に加える。工業的にはホタル石(CaF)、炭酸ナトリウム硫酸ナトリウム炭素とともに融解して作る。
  2. 性質:無色、結晶。融点992℃ 水溶液はアルカリ性を示し、ガラスを侵す。
  3. 用途:@たんぱく質接着剤の防腐並びに結合剤。
       A木材の防腐。
       Bホウロウ工業の間接乳白剤。
  4. 注意:毒性があり、粉末は粘膜を刺激し、神経系統を侵すので、工場では防毒マスク、ゴム手袋を使用すること。


 フッ素は強い化学反応性を持つこと、また塩素と同じハロゲン系元素ではあるが、塩化ナトリウムとフッ化ナトリウムでは、毒性はフッ化ナトリウムの方がはるかに高いことが分かります。そのフッ化ナトリウムが水道水に添加されるのですが、それは米国における給水人口あたり約1割だそうです。現在、添加されるフッ化物の6割は珪フッ化水素(HSiF、ヘキサネフルオロ珪酸)、次いで約3割が珪フッ化ナトリウム(NaSiF、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム)だそうです(秋庭賢司「歯の健康と水道水フッ素化」消費者レポート 第1137,1138号、2000年12月27日)。


珪フッ化水素(HSiF、ヘキサフルオロ珪酸) 分子量:144.11

  1. 製法:四フッ化ケイ素を水に作用させるとコロイド状ケイ酸とともに生成する。
    3SiF+4HO → 2HSiF+Si(OH)
    この混合物フッ化水素酸を作用させると多量に得られる。工業的にはフッ化水素酸にケイ石(二酸化ケイ素)粉末を加えて熱しても得られる。
      4HF + SiO → SiF + 2H
      2HF + SiF → HSiF
  2. 性質:融点19℃ 水溶液は硫酸に匹敵する強二塩基酸。ごくわずかに解離してフッ素イオンの反応を示す。
      HSiF → 2HF + SiF
  3. 用途:防腐剤や製紙工業に利用される。
  4. 注意:皮膚を腐食する性質がある。

珪フッ化ナトリウム(NaSiF、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム)
分子量:188.07

  1. 製法:ヘキサフルオロケイ酸に炭酸ナトリウムまたは水酸化ナトリウムを作用させて得られる。
    工業的にはヘキサフルオロケイ酸溶液に食塩、またはボウ硝溶液を加える方法、または過リン酸石灰製造の際副生するフッ化カルシウムに硫酸、ケイ砂(二酸化ケイ素)、食塩を加える方法が行われる。
  2. 性質:溶解度 水   0℃ 0.44g/100g 
             100℃ 2.45g/100g
  3. 用途:磁器のウワグスリ乳白ガラスの製造。
       フッ化ナトリウムの原料。
       ホウロウ、ゴム着色剤、防腐剤、医薬、農薬などに用いる。

「フッ素とフッ化物による中毒について」

 以下は『中毒ハンドブック』(山村秀夫監訳、廣川書店、平成2年、第11版)を参考にして書きました。

フッ化物の中毒

  1. 致死量:フッ素にして5〜10mg/kg 
        だだし毒性効果は1mg/kg以下でも起こる。
        血中致死濃度:3mg/リットル
        フルオロ珪酸の致死量はフッ化物の場合と同じ。
  2. 毒性の性質:フッ素とフッ化物はカルシウム代謝および酵素作用を阻害し、これによって直接、細胞毒として挙動する。フッ化物はカルシウムと不溶性沈殿物を形成し、血漿中のカルシウム濃度を下げる。
  3. 皮膚・粘膜への毒性:フッ素、フッ化水素(フッ化水素酸)、およびほとんどのフッ素誘導体は組織の腐食剤である。
    1〜2%濃度の中性フッ化物は粘膜の炎症と壊死を引き起こす。
    死後には硬直が急速に起こり、その病理所見は脳のうっ血と浮腫、肺水腫さらに肝と腎における変性である。

フッ化物の慢性中毒

  1. 1日あたり6mg以上のフッ素摂取はフッ素症を起こす。
  2. 症状は、体重減少、骨脆弱、貧血、脱力、関節の強直であり、もし歯の形成期に暴露すると歯が褐色となる。
  3. 骨硬化と靭帯のカルシウム沈着。
  4. フッ素を扱う作業従事者は6ケ月ごとに尿中のフッ化物を定量すべきである。
  5. フッ素症の治療は暴露を受けぬようにすること。関節強直が戻るまで、1年またはそれ以上、他所に移転して暴露を避けることが是非とも必要である。

 中毒量について、フッ素応用推進派の一部では「見込み中毒量(PTD)=5mgF/kg」であると言っています。境脩先生は「フッ化物応用と健康」という本の中で、5mgF/kgは、230ppmの洗口液で、20kg体重の5,6歳児が洗口したとして、430ml、つまり86人分に相当すると書いています。中毒学の専門家は5〜10mg/kgが致死量であると書いてあるのですから、軽い症状が現れ始める量(最小中毒量)はどの位かというと、秋庭賢司先生が詳しい論文を書いて発表していました。それによると、過去の中毒事故の報告からは、0.2〜0.3mgから唾液分泌の増加、悪心・嘔吐などの症状が現れ始めるとのことです。0.2mg/kgとすれば、体重が20kgとして4mgの摂取ですから、洗口液5ml(1.15mg含有)の4.35人に相当します。洗口は子供が毎日することで、全量飲み込みもあり得るのですから、安全域が広い衛生事業とは言えないと思います。

 フッ化物は添加する場合、1ppm 以下に希釈して添加するので、害はないと主張している専門家が多くいます。同じハロゲン系の塩素を例にとると、確かに塩素ガスには強い刺激性があり、塩酸は強酸ですが、塩素は薄めて水道水に加えて消毒に用い、塩酸は薄めれば飲んでも何ら害はありません。塩化ナトリウムは我々の体に必須のものです。しかしフッ素ガス、フッ化水素は塩素ガス、塩化水素とは比較にならないほど毒性が強く、フッ化物は人体にとって必須のものではありません。それはフッ素欠乏症という病気がないことでも分かります。(フッ素が必須の微量元素であるか、ないかについては議論がありますが、人体に微量に存在するというだけでは「必須」とは言えません。)フッ化物水溶液は薄めれば毒性は低くなるでしょうが、化学物質としては毒であることに変わりはありません。この点、塩素イオン、塩酸、食塩とは本質的に異なるのです。

 では、毒性をおぎなってなお余りある利益がフッ化物にあるというのでしょうか。フッ素の効用とはどんな程度のものなのでしょうか。それはまた次に載せたいと思います。

  

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