水道水フッ素化の非効率性


「水道水フッ素化の非効率性――給水量に対する飲水量の比率から考える」(『フッ素研究』[22巻,2002年8月]という雑誌に掲載された小生の論文です。)

1.はじめに
 
 平成12年の年末頃から水道水フッ素化の実施に向けた厚生労働省や日本歯科医師会などの動きが新聞で報道されるようになった。著者は偶然、水道水フッ素化の実施を推進しようとする人々の出版物を読み、この施策が「実行しやすく安全かつ効率的な公衆衛生的手段である」と書かれていることに疑問をいだいた。なぜなら人が1日に飲む水道水の量は1〜2リットルであり、浄水場においてフッ化物を添加すると、水道水のほとんどは飲用以外に使われ、とても効率的な施策とは考えられないからである。
 過去の文献を調べてみると、給水量と飲水量の比率から施策の非効率性について言及した報告には山田らのもの1)があったが、根拠となるデータは示されていない。著者は主として宮城県と仙台市の水道関係のデータに基づきこの点に焦点をあてて検討した。

2.効率性の検討
 
 2−1.給水量とフッ化物添加量
 
 以下に用いた水道関係のデータは現在入手可能な最も新しいもので、特に明記しないかぎり平成12年度の宮城県統計資料によった2)
 仙台市における年間総給水量は125,129,000キロリットル(リューベ、m…@)で、漏水を除いた有効給水量は118,872,000キロリットルである。この内、家庭用水量は81,922,000キロリットルである。給水人口は979,977人で、1人1日当たりの家庭用水量(給水量)は229.0リットル(…A)である。
 浄水場の水源におけるフッ素濃度は、仙台市の5ヶ所の水源のうち4ヶ所で測定限界の0.05ppm以下、1ヶ所で0.05ppm(平成11年度)であった3)。そこで0.75ppm(0.75g/キロリットル…B)のフッ素を浄水場で添加するとして以下の計算をした。
 仙台市における年間フッ素添加量は総給水量@と添加濃度Bから93.85トン(…C)となり、フッ化物としてフッ化ナトリウム(NaF)を用いたとすると、フッ素の原子量が19.00、フッ化ナトリウムの分子量が41.99であるので、フッ化ナトリウムの添加量は年間207.4トンとなる。
 
 2−2.給水量、飲水量から計算した効率性
 
 成人が1日に摂取する水の量は、2.5〜3.5リットル、そのうち食物から約1.5リットル、飲水量は1〜2リットルである。従って、1人1日当たり給水量に対する飲水量の割合は、Aから0.437〜0.873%(…D)となる。
 仙台市で給水人口のすべての人々が1人当たり1日1〜2リットルの水道水を飲むと、添加したフッ素量のうち1年間に摂取する量はBから268.2〜536.5kg(NaFにして592.8〜1,186kg)となる。これは浄水場で添加したフッ素量Cの0.286〜0.572%(…E)に当たる。
 
 2−3.総飲水量のうち子供が飲む量
 
 給水人口はすべての年齢層を含むが、齲蝕予防に関係する年齢層は永久歯が生えそろう12歳頃までの子供だけである。宮城県の場合、14歳未満の人口は平成2年が全体の19.5%、平成7年が16.9%で、年々低下する傾向にある。そこで齲蝕予防に関係する子供の飲水量を総飲水量の1/5とする。従って効率性も1/5となり、Dは0.087〜0.175%、Eは0.057〜0.114%となる。
 結論として齲蝕予防に関係する水道水フッ素化の効率は多く見ても0.175%、少なく見て0.057%ということになる。つまり添加されるフッ化物の99.8〜99.9%は下水に流れていくだけで、齲蝕予防とは無関係である。

3.考察
 
 水道によって供給される水から「工業用水」を除いたものが「生活用水」で、生活用水から「都市活動用水」を除いたものが「家庭用水」である。都市活動用水とは営業用水、事業所用水、公共用水、消火用水などである4)。家庭用水は主として風呂、トイレ、炊事、洗濯に用いられ、飲用水は家庭用水(給水)の1%以下にすぎない。
 飲用水を1人1日1〜2リットルとして、入手できたいくつかの数値、即ち「年間総給水量」、「年間有効水量」、「1人1日あたりの家庭用水量」、「子供数の人口に占める割合」、「添加フッ素濃度」などを基に計算すると、99.8〜99.9%の水道水は齲蝕予防とは無関係であることが分かった。
 宮城県の各市町村の1人1日あたりの有効水量は、最大量の鳴子町で734.0リットル、最小量の石越町で185.3リットル(仙台市は332.3リットル)と約4倍の差がある。これは鳴子町では温泉地として人口に比してホテルの数が多いこと、石越町のような人口の少ない農業地域では、都市活動用水が少なく、井戸や川水を用いることがまだ比較的多いことによると考えられる。
 東京都では1人1日当たりの家庭用水量は250リットル3)である。1人あたりの家庭用水量は大都市の方が小都市より多い傾向があるが、最近は地域の人口規模の違いによる生活様式、都市活動等の差が従来に比較して小さくなってきており、これに伴って家庭用水量の地域格差も小さくなっているという。また人口もピークを迎え、これまでに比較すると家庭用水量の伸びは鈍化し、1人あたり家庭用水量は微増傾向で推移するものと考えられている4)。従って、仙台市で得られたフッ素添加の効率についての数値は、日本の各市町村でそれほどの違いがあるとは考えられない。有効給水量の多い地域では、非生活用水が多く、水道水フッ素化の効率はさらに低くなると考えられる。
 水道水のフッ素添加の非効率性と環境汚染について、山田らは以下のように述べている1)

「上水道にフッ化物が添加された場合、齲蝕予防の恩恵にあずかる可能性がある子供たちが利用する水道水はわずか1%にも満たないとみられており、他の99%以上の水はなんら恩恵のない大人に飲用されたり、漏水として失われたり、しかもその大半は排水として下水道へ流れてゆくのである。たとえば、人口50万人の都市で水道水にフッ化物を1ppm添加すると、年に70トンのフッ化物が投入され、これらのほとんどすべては下水道などより環境汚染物質として蓄積されることになる。」
 浄水場でフッ化物を添加する場合、フッ素濃度を基準値上限の0.8ppmに調整するという。フッ素はカドミウム、水銀、鉛、砒素、6価クロム、シアンなどと共に健康に関連する水質基準の上限が省令で定められている「無機物質・重金属」の一つである。省令の本来の目的は有害物質の監視基準であって、上限値まで無機質や重金属を加えてよいというものではない。
 本論考では齲蝕予防に対するフッ化物の効果については触れなかった。しかしここで試算したように、添加したフッ化物の殆どが無駄になる効率の悪い施策は行うべきでないと考える。有効性があるなら、コップの水道水に適当な濃度のフッ化物溶液を数滴たらして飲むような方法をとるべきである。水道水にフッ化物を添加するなら、それは「有害物質を水道を通じて下水に廃棄するのに効率性の高い施策」というべきであろう。

4.参考文献:

1) 山田文夫、押田茂美、赤石英:「新薬の臨床試験と上水道フッ素化をめぐる法医学的諸問題」:『歯界展望』昭和51年7月、第48巻、第1号:119−123頁.
2) 『宮城県の水道』:宮城県環境生活部生活衛生課(平成12年度水道統計調査)
3) 『水道統計』厚生労働省健康局水道課、第82-2号、平成11年度(水質編 3.源水の水質)
4) 『日本の水資源』(平成13年度版):国土交通省、土地・水資源局、水資源部編


 Abstract:
 
 The efficiency of water fluoridation for the prevention of the tooth decay of children was studied from the view point of the ratio of the volume of the water supply and that of the water drunk by the children. The data used in this study were those of Miyagi Prefecture and Sendai City. The average water supply is 229.0 liter /person/day. If each people drinks 1-2 liter a day , only 0.087-0.175% of the total water supply are drunk by the children under the age below 15 years old. It also appears that only 0.057-0.114% of added fluorine are utilized by the children. The policy , that 99.8-99.9% of added fluorine just contributes to the environmental pollution, is not efficient for the prevention of the tooth decay.

 Title:
 
 The low efficiency of the water fluoridation for the prevention of the tooth decay , proved based on the ratio of the volume of the water supply and that of the water drunk by the children

 

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