教育機関における集団フッ化物洗口の
事前説明・自己決定を考える

 


フッ素って安全なの?

 フッ素は、諸外国では半世紀以上前からむし歯予防に使われていて、WHO(世界保健機構)も使用をすすめています。水道水にも加えられており、高い効果を上げています。残念ながら日本では、まだまだフッ素の応用は遅れています。遅れている主な原因は、フッ素の安全性に対する誤解と考えられます。
 
 最も大きな誤解は、フッ素の量に対するものです。たとえば、栄養剤もとりすぎれば有害となるようにフッ素もとりすぎれば有害となります。指示された量を、よく守って使用すれば、フッ素は安全で確実なむし歯予防法です。
 
※ 神奈川県, 神奈川県歯科医師会
  「フッ素で つよい歯 じょうぶな歯 〜 フッ素洗口手帳 〜」(P4) より [平成13年3月]

 これは神奈川県と神奈川県歯科医師会がフッ化物洗口を虫歯予防のために推奨する目的で配布したパンフレットの一頁です。

 現在、フッ化物を応用した虫歯予防方法として、洗口、塗布が行われていますが、高濃度のフッ化物を使用する塗布法の場合は歯科医師などが行います。フッ化物洗口は幼稚園や小学校などで集団で実施しているところがあり、全国的に徐々に普及しているようで、上記の様にパンフレットやインターネット上などで歯科医師会や歯科医師が盛んにPRをしています。

 フッ化物洗口(フッ素洗口)

 ここでフッ化物を応用した虫歯予防方法で、一部の幼稚園、小学校などで行われている洗口法を取り上げて考えます。
 
 幼稚園や小学校などでフッ化物洗口が行われる場合には───
 
  ・フッ化物(フッ素)とは何か
  ・虫歯予防のメカニズム
  ・虫歯予防の効果−有効性
  ・安全性
  ・方法
  ・使用上の注意
 
  ───などが説明されることと思います。

 そこで安全性に関してパンフレットなどを読みますと、多くの場合、次の様な事が書かれています。

 フッ素利用によるむし歯予防については、 すでに多くの研究者や研究機関が長年にわたってあらゆる方法から再三の確認を行い、 安全かつ有効であるとの結論が出ています。 これらの結果を踏まえて、 WHO (世界保健機関)、 FDI (国際歯科連盟) をはじめ、 国、 日本歯科医師会、 日本口腔衛生学会など内外の専門機関・専門団体が一致してフッ素利用の有効性と安全性を認め、 その積極的な利用を推奨しています。

(「フッ素洗口の手引き」新潟県・同県教育委員会・同県歯科医師会・同県歯科保健協会)


 さて、WHO(世界保健機関)やFDI(国際歯科連盟)などの医学、歯学の世界的な権威ある団体がいわゆる「お墨付き」を与えているのですが、このような団体の推奨があることは、一般的には世界中の市民が、虫歯予防にフッ素を応用する事の安全性を考える上で、有用な判断材料となることでしょう。

 しかし、フッ化物(フッ素)応用の安全性について、一部の医学、歯学の専門家から疑問が投げかけられていることをご存知でしょうか? 前記、神奈川県のパンフレットでは「フッ素の安全性に対する誤解」とかたずけられているのですが、少数ですが、世界中で根強く安全性に対する疑問が提起されています。このフッ化物(フッ素)応用に関する安全性の議論は、誰もが納得するような結論には達していないことの現れの様に思われます。たとえ数多くの権威ある団体や学者の推奨があるとしても、これは安全性に関する議論であり、慎重に取り扱うべきものと考えられます。少なくとも、教育機関等で集団的にフッ化物を応用する際には、事前の説明において、ネガティブな情報として、最低限、「安全性に関しては、少数ではありますが疑問の声もあります。」などと情報提供されなくてはならないと考えられます。

 なぜ、世界中の権威ある団体がこぞって推奨しているフッ化物応用において、一部少数の疑問提起を知っておくべきなのかというと、それは、過去を振り返ると、常に権威ある団体や学者の提唱する事柄が正しいとも限らないと言うことが歴史的教訓として導き出されるからです。誤解して頂きたくないのは、一般的には権威ある団体や学者の提唱することは大方、正しいと推定出来るということです。ただし、絶対視して盲目的に信じることには、若干の問題が場合によってはあるということを言いたいのです。

 フッ化物の虫歯応用の安全性については、いずれ安全だと誰もが納得するような結論を得られる日が来るかも知れません。しかし、逆の場合も考えられなくもありません。現在の状況は、誰もが納得するような結論には至っていないと言わざるを得ない、と思われるのです。しかし、行政が保健施策としてフッ化物洗口などを実行しようとする際には、不安を招きたくないのか、また、混乱するとでも思っておられるのでしょうか、不安や混乱を招きかねない情報の提供には積極的ではないようです。


 フッ化物洗口に関する事前の説明──新潟県見附市の場合

 ここで、新潟県見附市の市民がフッ素洗口に関する9項目の質問書を市長に送り、回答書を得た事例につき取り上げてみたいと思います。
 
 質問者は小学校、養護学校のフッ素洗口に関する事前の説明において、行政側が安全性・有効性のみの一方的な情報しか与えていないのは、偏った情報であり、そのように偏った情報に基づいて「希望制」の名の下に行われる行為は、一種の「誘導」であり、広く危険性を指摘する説なども情報提供しないならば、「希望制」の根幹に関わる問題と、問い合わせをしているのだと思われます。
 
 以下は見附市(見附市長)からの回答書です。


 ○○ ○○ 様(註:質問書提出者)

 陽春の候、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

 さて、小学校、養護学校におけるフッ素洗口の件について「わたしの声」をお寄せいただきましたので別紙のとおりご回答いたします。
 今後とも、皆様方からの貴重なご意見に耳を傾け、開かれた市政運営に努めてまいる所存でありますので、ご意見ご提言をお寄せいただければ幸いであります。

平成14年4月22日 見附市長 大塩満雄          


 −− 1〜8の質問項目および回答は略 −−   

(註:質問項目)
9 「希望制」というものの、賛否両方の意見がある中、フッ素の安全性・有効性のみの一方的な情報しか与えない説明会のあり方はアンフェアであり、事実上の「強制」であると思います。両方の情報を提供した上で保護者の判断を仰ぐべきだと思いますが、いかがお考えですか。

【回答】 参加を自由にし、希望制にしているのは本来的には児童生徒の健康の保持増進にかかわっては家庭におうところが多いと考えるからです。しかし、「う歯数、う歯罹患率」等学校健康教育上の解決すべき緊急課題がある場合、学校設置者は課題解決の方策を講ずる必要があります。そこで、フッ素洗口の安全性・有効性を紹介し、家庭と協力し児童生徒の健康の保持増進を図る行政支援であると認識しています。「一方的な情報しか与えていない」という指摘は、決して一方的ではなく米国の水道水のフッ素化と骨折の関係や骨肉種の発生率、骨粗しょう症の治療におけるフッ化物の投与と骨折の関係、フッ素の突然変異原性による異常発現データの蓄積、ダウン症候群の増加等遺伝毒性等について、「WHOのテクニカルレポート846・米国厚生省」はことごとく否定的な見解を示しているからです。また、科学的に検証・確認されていない説は責任をもって紹介することは避けた方がよいと考えるからです。(註:当方で赤く着色)

出典:「反フッ素 Letter 52」(2002年7月)
   事務局:主婦連、
   発行:フッ素を考える新潟連絡会



 若干、本題から外れますが、まず一市民からの問い合わせに対し、誠実に市長の自筆署名入りの回答書を送ること自体、素晴らしいことだと思いました。見附市のホームページで市長さんも「見附市は、人口4万4000人のちっぽけなまちです。しかし、──小さくてもキラリと光る特徴あるまちづくりに頑張っているところです。」と述べておられます。(※平成14年10月に選挙があり、市長は交代しました。)

 本題に戻りますが、赤く着色した部分に「科学的に検証・確認されていない説は責任をもって紹介することは避けた方がよいと考えるからです」とありますが、なるほどと思わせるものがあります。多くの権威ある医学・歯学の国際的な団体の推奨があり、公平にとは言え、のべつ科学的根拠の薄い反対意見(説)を情報提供する事は、回答書の通り、行政の立場からすれば不適切と思われるのでしょう。
 
 しかし、この「科学的に検証・確認されていない説は責任をもって紹介することは避けた方がよい」とする考え方は、フッ化物応用に限らず、これまでの薬害の歴史を振り返ると問題があると思われるのです。


 薬害の教訓──「科学的根拠」「因果関係」

 「科学的に検証・確認されていない」とは、「科学的根拠がない」とか「因果関係が証明されていない」ということと同義と考えられるのですが、薬害の歴史を見ると、ある薬について深刻な有害作用(副作用)の指摘がある時、しばしば「科学的根拠がない」とか「因果関係が証明されていない」として、使用・販売中止や回収などの対処がなされず、被害が拡大し、深刻化してしまうことがありました。
 
 一般的に、有害性や危険性についての「科学的に検証・確認された説」が存在する場合には、それを上回る有益性が認められる場合などの例外を除き、そもそもその様な薬は使用・販売中止、回収されるべきであります。有害性や危険性を上回る有益性が認められて使用される場合にも、当該薬剤から得られる効果とのバランス、代用薬の有無、副作用症状の重さ、副作用の可逆性、副作用の頻度等を考え、インフォームド・コンセントの手続きを経るなどして慎重に取り扱う必要があります。

 片平洌彦先生は有害性が疑われた医薬品に対する基本姿勢を御著書の中で以下のように述べておられます。以下の文章は薬害事件からの教訓として、相当程度の有害性の疑義を前提に述べられております。

 ──有害性が疑われた医薬品に対する措置は「疑わしきは罰す」を原則とし、迅速に使用中止・回収、その他適切な措置をとるべきです。なぜなら、経済被害は後からでも補償が可能ですが、「生命・健康への被害はとりかえしがつかない」からです。(もちろんこの話は、「確証ではなくとも、疑うに足る合理的・科学的な根拠があること」と、「その医薬品を使用中止にしてもその使用者の生命・健康に重大な脅威が生じないこと」の二つが前提となっています)。
(出典:「ノーモア薬害」片平洌彦著,1995年,桐書房)     


 つまり、ある薬剤に対して有害性が疑われる場合には、その使用者の生命・健康を第一に考慮する思考で対応する事が必要条件であり、この思考から必要と思われる対応を臨機応変にすることが求められているのです。


 フッ化物洗口に関する事前の説明はどうあるべきか

 さて、フッ化物応用に関する安全性の疑義は、高濃度のフッ化物を応用するフッ化物洗口や歯面塗布の急性中毒の危険性のほかに、長期間フッ素を摂取(誤飲なども含む)した場合に起こる障害の危険性があります。前述の通り、誰もが納得するような結論には至っていないと思われる現在の状況で、フッ化物応用について考えるならば、慎重に対応することが賢明に思えます。安全だとする説が有力であることに配慮しつつ、しかし、最大限、人々の健康に留意した対応をするならば、まず個々人が選択(自己決定)出来るようにすることと、その前提となる幅広い情報を提供することが必要だと思います。その際には、「科学的に検証・確認されていない説は責任をもって紹介することは避けた方がよい」などと事前に提供する情報をふるいにかけたりすることはすべきではありません。言葉が悪いのですが、お節介なことで、どのような情報が有用か無用かは情報を必要とする人間が判断すべき事で、とりあえず、全てオープンに幅広い情報提供に務めるべきでしょう。行政が施策を実行する上で市民に混乱や不安を与えたく無いのは分かりますが、広く情報を提供することで、市民各々が責任を持って選択(自己決定)することこそが重要だと思います。


 フッ化物洗口に関する配慮

 現在、我々は自由な社会に生きており、かつて無いほど価値観も多様化し、安全性に問題が無いとされている農薬を使用した野菜、果物、或いは遺伝子組み替え食品も、人によっては食べたくない、或いは出来るだけ摂りたくないと、そのように考える人達が大勢いることにも配慮する必要があります。安全性に関して、あれこれ考えたくないから、とりあえず政府や学会の言う通り信じるとする人々から、一部でも危険性を指摘する声があるのなら摂りたくない、と厳格に安全性を考える人々もいます。このように、純粋に科学的な安全性の問題とも言えない、個々人の意識、価値観、嗜好、信条の違いから必要とされる配慮も考えなければならないと思います。

 

  ホームヘ戻る

宮千代加藤内科医院(仙台市)のホームページ

検索エンジンKEYWORDS:Fluoride Fluoridate Fluoridation 虫歯 むし歯 ムシ歯 齲歯 う歯 ウ歯 齲蝕 う蝕 ウ蝕 ふっ素 ふつ素 フツ素 弗素 ふっ化物 フッ化物 フツ化物 フルオリデーション 水道水フッ素濃度適正化 水道水フッ素イオン濃度適正化 水道水フッ化物濃度適正化 水道水フッ化物イオン濃度適正化 日本口腔衛生学会 日本歯科医学会 フッ化物検討部会 フッ化物検討委員会