フッ素は必須栄養素?


フッ素はともだち                    
      フッ素は自然の中に含まれています
 
 WHO(世界保健機構)及びFAO(食糧農業機構)ではフッ素を必須栄養素としています。 
 
※出典:(財)新潟県歯科保健協会「フッ素でブクブク歯をつよく」(平成11年5月) 


 虫歯予防のためにフッ素利用を推進する、いわゆるフッ素利用推進派の広報では多少の違いはあれど上記のように、フッ素が「栄養素」ないし「必須栄養素」であると広報しています。

 ■「栄養素」「必須栄養素」とは

栄養素 [nutrient]  ※無機質=ミネラル
 人が健康を維持していくために必要な食物成分.栄養素のうち糖質,脂質,タンパク質を一般に三大栄養素,これに無機質,ビタミンを加えて五大栄養素としている.ほかに,水は生体成分を溶かす溶媒として,また栄養素や代謝産物の運搬,浸透圧や体温の調節,生体内化学反応の円滑化などに重要な役割を担っている.外界から取り入れられた高分子の栄養素は,胃や腸などの消化管において吸収可能な低分子にまで分解されたのち吸収される.栄養素の必要な種類と量は年齢,性,生活活動の程度により異なるが,その機能は3つに分けられ,体の構成成分になるものとしてタンパク質,無機質,脂質および水,エネルギー源になるものとして糖質,脂質およびタンパク質,体の機能を調節するものとしてビタミン,無機質,タンパク質および水がある.一方,セルロースやペクチンなどの難消化性多糖類(食物繊維)は,ヒトの消化酵素では分解されないので栄養素としては意味のないものと思われていたが,腸内細菌による発酵を受け,有機酸を生成してエネルギー源として利用されたり,血清コレステロール濃度を正常に維持したり,血糖上昇を抑制したりするなど,人の健康に役立つことが明らかになった.
※出典:食品安全性辞典 [1998年8月1日初版,共立出版(株)]


必須栄養素 [essential nutrient]
 食品に含まれる成分のうち,人が活動し,成長し,健康を経持するために必要な栄養素.糖質および脂肪,タンパク質,ビタミン,無機質,水に分類される.これまでに40〜45種類の物質が必須栄養素として確認されている.アミノ酸(必須アミノ酸),グルコース,脂肪(必須脂肪酸),ナトリウム,カリウム,マグネシウム,塩素,硫黄,リン,鉄,亜鉛,銅,コバルト,クロム,マンガン,セレン,モリブデン,フッ素,ヨウ素,チアミン,リボフラビン,ナイアシン,ピリドキシン(ビタミンB6),葉酸,ビタミンB12,パントテン酸,ビオチン,アスコルビン酸,ビタミンA,D,E,Kなどがある.特に,経口摂取のできない経静脈栄養の患者では栄養素が直接静脈内に注入されるので,必須栄養素の種類だけでなく,量的にも正しく確保されることが重要となる.
※出典:食品安全性辞典 [1998年8月1日初版,共立出版(株)]


 上記の記述を読みますとフッ素は必須栄養素であると読めます。しかし、同じ出典の別の項目では以下の記述も見られます。

ミネラル [mineral]
 無機質ともいう.生体を構成する元素は炭素,水素,窒素,酸素で96.6%を占め,残り3.4%中に約80種類以上の無機質と呼ばれる元素が含まれる.このうち,カルシウム,リン,カリウム,硫黄,ナトリウム,塩素,マグネシウムは人体に10g以上含まれる多量元素(マクロミネラル)で,無機質中60〜80%を占める.多量元素(マクロミネラル)は骨や歯の構成成分として,また細胞内・外液中ではイオンとして酸−塩基平衡や細胞内外の物質の移動などに関与している.また,生体内に5g以内で存在している他のミネラルは微量元素(ミクロミネラル)といい,そのうち必須性が証明されているものを必須微量元素と呼ぶ.
※出典:食品安全性辞典 [1998年8月1日初版,共立出版(株)]

微量元素 [trace element]
 微量金属ともいう.体内に微量にしか含まれない(5g以内)元素.そのうち,必須であるといわれる微量元素は15種類(鉄,亜鉛,銅,クロム,ヨウ素,コバルト,セレン,マンガン,モリブデン,珪素,砒素,フッ素,ニッケル,スズ,バナジウム)で,はじめの11元素が必須であることが明白になっている遷移元素である.また必須性は,金属酵素が存在すること(亜鉛,銅,セレン,マンガン,モリブデンなど)あるいは生理活性物質の重要な構成成分であること(鉄,ヨウ素,コバルトなど)などが明白になることにより示されるが,必須性の定義の仕方により他の微量元素も必須微量元素に含まれることもある.また,微量であるがゆえに欠乏や過剰摂取の問題が生じる.微量元素の摂取量が健康に及ぼす影響を5段階で少ない順に表現すると,欠乏潜在的欠乏栄養量薬理量中毒量となる.栄養量中毒量との間にどの程度の開きがあるのかは元素によって異なるが,多くは10倍以内で毒性レベルに達するといわれており,注意を要する.このことは栄養学上の必須性と化学的安全性について今後十分な検討が必要であることを示している.
※出典:食品安全性辞典 [1998年8月1日初版,共立出版(株)]


 次に、米国メルク社の発行しているメルクマニュアルという医学事典のフッ素の項を見てみます。


フッ素

 フッ化物は,フッ素(F)のイオンの形態で,自然に広く分布する。体内のフッ素のほとんどは骨や歯に含まれている。海水魚や茶は豊富な供給源であるが,主な供給源は飲料水である。1)
 
 註1):メルクマニュアルを発行しているメルク社が米国にあることからこういう表現になっていると思われる。日本国内の飲料水のフッ素濃度は全般的に低い。
 
 欠乏症:一部の権威はフッ素を必須ミネラルとみなしていない。なぜならこのミネラル単独で解消される欠乏状態を起こせないからである。しかし,NAS/NRC(National Academy of Sciences/National Research Council)のFood and Nutrition Board(食品栄養委員会)は,フッ素はう食の予防に必須であり,またおそらく骨粗鬆症の予防にも必須と考えている。フッ素の理想濃度である1ppm以下のフッ素を飲料水に入れると,う食の発症率は顕著に低下する。
 
 毒性:フッ素の過剰蓄積(フッ素症)は,フッ素摂取の量と期間に比例して歯と骨に起こる。10ppm以上を含んだ水を飲んでいる地域では,一般に影響を受ける。フッ素症は,フッ素を多量摂取している時期に成長する永久歯に最もはっきりと認められる。乳歯は,非常に多量に摂取した場合にのみ影響を受ける。最も初期の変化は,エナメル質表面にみられるチョークのように白く不規則な配置の斑点で;これらの斑点は黄色や茶色のしみになり,特徴的な斑点状外観を呈してくる。重症のフッ素症はエナメル質が弱くなり,表面に穴があく。骨硬化症状,脊椎の外骨症および外反膝を特徴とする骨の変化は,通常,成人が長期間のフッ素の多量摂取の後に限ってみられる。

※出典:メルクマニュアル 第17版 日本語版 ← 萬有製薬


 これまでの文章から、フッ素は必須微量元素と推定されてはいるものの、鉄や亜鉛のごとくヒトにおいて必須性が明白であるとは認められていないということが分かります。
 
 以下はフッ素の安全性について高橋晄正先生がまとめられた「むし歯の予防とフッ素の安全性」(1982)というご著書のフッ素の栄養素としての必須性について詳しく検討された部分です。


「むし歯の予防とフッ素の安全性」
 
 (高橋晄正著,「薬を監視する国民運動の会」発行,1982年)の137−141頁より

5.フッ素の栄養素としての必須性

 ある化学成分が必須栄養素であるか否かを決めるための基準は,アンダーウッドの著書『人間と動物における微量要素』(1962)のなかに示されている.それを要約すると,次のようになる.

 <第1の基準>
 その成分を食事に追加することが,成長や健康にたいして有効に反応することを,再現性と統計的有意性をもって示すことができなければならない.
 
 <第2の基準>
 その成分またはその成分だけを欠いて,その他のものは適切で十分である食事が欠乏症状を発展させることができなければならない.このような食事はそれ以外の既知の必須栄養素のすべてを適当量含み,有毒成分を含んでいてはならない.
 
 <第3の基準>
 これまで必須栄養素であることが示されている大部分の栄養素成分については,いろいろな生体器官中に存在するその成分の含有量と食事中に含まれている量の間に一定の相関関係が示されている.

 アンダーウッドのこうした明確な規定のもとでは,フッ素がこれまで動物において何らかの生物学的機能をおこなってきたということを証明することはできていない.
 
 フッ素の摂取量が多い地域ではむし歯の発生が少ないという事実はほぼ疑いのないことであろうが,それだけではフッ素が必須栄養素であるという証明にはならないということを,アメリカの国家研究委員会(National Research Council,NRC)の「大気汚染の生物学的影響に関する委員会」はその著書『フッ素化合物』(自然科学アカデミー,1971)で述べている.
 
 もともとむし歯の発生率に関係する要素は数多く存在するうえに,極く少量のフッ素しか摂取していない人たちでまったくむし歯のない人が大ぜいいるのである.フッ素の摂取量が多くなると「骨粗髭(しょう)症」系統の病気が予防されやすいということも,同じような見地からフッ素の必須栄養素性を証明する根拠とはなしがたいものといえる.
 
 フッ素の必須栄養性を検討するためにこれまで多くの栄養学者がおこなってきた実験のほとんどすべては,食品中のフッ素濃度を下げることが難しかったために,最低でも0.1ppm程度のフッ素を含む食事を使っていた.この点に特に注意して極く少量のフッ素しか含まない食事でおこなわれた実験として1957年のマウラーとデイの実験,1963年のドベレンツらの実験および1966年のウェーバーの実験があげられよう.
 
 マウラーとデイの実験(1957)は,あらゆる食品成分を精製してフッ素を0.007ppmしか含まない食事をつくり,それを与えたラットで四世代にわたる飼育実験をおこなったが,一般状態,歯の状態,体重の増加,各種の組織でのリン酸酵素(フォスファターゼ)に影響が見られなかったという.このとき対照群として2ppmのフッ素を含む水を与えるほかはまったく同じ条件で飼育したラット群でも何ら異常が認められていないという記載がある.
 
 一方,ドベレンツらの実験(1963)は水耕法で栽培した大豆とトウモロコシを使って0.005ppm以下しかフッ素を含まない飼料を作ってラットを飼育し,血中ならびに組織中の酵素活性を広範囲にわたって検討したが,血中のイソクエン酸脱水素酵素がわずかに低い値を示しただけであった.このときにも2ppmのフッ素を含む水を与えたラットを対照群としている.
 
 この研究所ではウェーバー(1966)はマウスについて同じような実験を三世代にわたっておこなっているが,同じように何らの異常をも認めていない.
 
 これらの実験データから,フッ素をラットおよびマウスの必須栄養素であると認めるべき根拠は,これまでのところまったく存在しないというべきである.もちろん,これらの実験からフッ素がこれらの動物にたいして決定的に「必須栄養素でありえない」と結論することはできない.もっと少ない量のフッ素を含む飼料での実験が可能になれば,違った結論がでてくる可能性は否定できないからである.しかし,仮にこれらの動物にとってフッ素が必須栄養素であるとしても,その必要量は法外に低い値であるに違いないというべきである.人間を含めて,その他の種類の動物にとってフッ素が必須栄養素であるかも知れないということを示す事実はまったく存在しないのである.このことは,NRCの上記委員会の著者『フッ素化合物』(自然科学アカデミー,1971)の結論でもある.
 
 以上の事実から,フッ素のむし歯ないしは骨代謝への有用性は(それが真実において存在するとしても),その薬物効果と見做すべきものであるということも,同委員会の見解として述べられている.
 
 この委員会の見解が出た1971年の翌年に当る1972年に,一応注目すべき二つの論文が発表されている.その一つはメッサーら(1972)のもので,低フッ素食で飼育したマウスでヘマトクリットの低下,妊娠率の低下および成長の低下が見られ,一世代および二世代における腹数(litter)の減少をきたす(ただし同腹仔数には変りがない)という.このような異常は,飲料水に50ppmになるようにフッ素を加えておくと予防できるというが,その量があまり高いことから考えて,フッ素は栄養素間のアンバランスないしは欠乏を調整する薬物として作用している可能性を考えなければならないのではないかといわれている.
 
 いま一つの実験は,シュワルツとミルン(1972)のそれで,高度に精製したアミノ酸食(フッ素含量0.5μg/kg=0.0005ppm)を与え,微量栄養素管理飼育室で飼育したラットの成長は,2.5μg/gのフッ素を含む飼料の添加によって最適刺激が与えられるというのである.しかしながら,この2.5μg/gすなわち2.5mg/kg または2.5ppmのフッ素を含んだ飼料を最適とするこの実験は,「アミノ酸食」という特殊条件下におこなわれたものであり,それに対照群のラットはフッ素を与えても標準以下の発育しかしなかったこともあり,再検討を必要とするものであると考えられる.とくに対照群の発育不良性は,用いられた飼料に何か栄養欠陥があったのではないかと疑われるし,ここで認められたフッ素効果は,栄養欠陥の,少なくとも部分的修正を要因として働いていた可能性を考えなければならないであろう.
 
 これらを総合して栄養学者ニールセンもいっているように,「現時点ではフッ素の最少必要量は,著しく低いものであるということ以外の結論をうることは不可能である」と結論するのが妥当であるというべきであろう.
 
 一方,さらに翌年にWHO専門委(1973)は次のように述べている.
 
 「上記のモノグラフ(注;フッ化物と人間の健康,1970)の刊行いらい,フッ素はラットの栄養における必須栄養素であることが示された.しかしながら,むし歯の部分的管理における以外には,人間の栄養における重要性は,今後の決定をまたなければならない.(中略)歯の健康との関連性は別として,人間の健康におけるフッ素の役割および人間の栄養におけるその重要性についての研究が大いに望まれる.」−WHO専門委『人間の栄養における微量元素』(テクニカルレポート,No.532,1973).
 
 しかしながら,『フッ素化合物と人間の健康』(1970)のなかの記載が,フッ素がラットの栄養においてどの程度に必須栄養素であるかを明確に示しているとは考えられない.その中にはムーラーの総説,ベンカテスワールーの測定精度に関する批判,ジプキンの“体中フッ素の沈着と動員についての可能なメカニズム”という一節などがあるが,最後にあげたジプキンの「石灰化におけるフッ素の必須的役割」というのは次のようなものである.
 
 「脊椎動物に関するかぎり,検査をおこなったすべての骨格および歯牙組織はフッ素を含んでいる.それにくわえて,フッ素は早期の転移性リン酸カルシウムのフルオロアパタイト,すなわち,もっとも安定なアパタイト(ブラウン,1966,ニュウァースリー,1965)への変換のために必要であることが示唆されている.これらの観察は,ミネラル構成がアパタイト構造をもつ骨の形成は少量のフッ化物の存在しないような生物学的条件のもとでは不可能であろうという,興味あるそして挑発的なニュウァースリーの仮説(1961)──ペルドックによって再論された(1963)──へと発展した.」
 
とあるだけで,WHO専門委がいっているようにラットの栄養におけるフッ素の必須栄養素性について確定的なことを述べているものではない.
 
 またアメリカの国家研究委員会(NRC)の『栄養許容量基準』(1974)には次のように記載されている.
 
 「フッ素は歯の構造中に蓄積され,むし歯にたいする最大限の耐性のために必要である(ゾンネス,1965,ベルンスタインら,1966).この元素の普遍的な存在のために,成長抑制をきたすのに十分なほど重いフッ素欠乏症状は著しくつくりにくい.低フッ素飼料を与えたラットでのフッ素による成長刺激は,ある場合には実験的に観察された(ムーラー,1970).
 
 極く最近になって,独立した生活環境の中で飼育し,0.5μg/kg(0.0005ppm)以下のフッ素を含む飼料を与えたラットで,成長促進効果が安定的に観察されている.2.5μg/gの飼料の追加によって最適の結果が得られた(シュワルツとミルン,1972).フッ素はしたがって必須栄養素と考えることができる.──国家研究委員会(NRC)『栄養許容量基準』(1974).
 
 しかしながら,この研究が精製アミノ酸食を用いているという特殊性があり,対照群も標準以下にしか発育していない点をNRCの『栄養許容量基準』は見のがしている.
 
 また,FAO/WHOの微量栄養素に関する合同委(1975)は,「ネズミのむし歯の予防に必須であることは認められるが,人間の機能を正常に営むために必須か否かについては何らのデータもない」と結論している.しかしアンダーウッドが与えた定義からして,ネズミのむし歯予防のための必須性を認めること自体妥当なことであるとはいい難い.フッ素はNRCの委員会が結論しているように,むし歯の予防薬として位置づけられるべきものであると考えられる.
 
 したがって,1975年のWHO総会において,水道水のフッ素化を世界各国に向けて推薦する決議をしたときの文書のなかに,フッ素を必須栄養素と見做している部分があるが,これが正しくないことは前に詳細に述べてきたことから明らかである.

 

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