ついに米国科学アカデミーのNRCが報告書を公表

『EPA Standard for Fluoride in Drinking Water Not Protect』
2006年3月22日


 米国科学アカデミーによる飲料水のフッ化物濃度とその安全性に関する調査結果が公表されました。576ページの出版物です。米国、カナダなどの水道水フッ素化に反対する市民運動グループによってかなり広く引用され、インターネットでその内容の概略を知ることができます。公表に当たって短い速報や記者会見があり、以下に米国科学アカデミーによる速報を和訳して紹介します。今回の公表内容は、2-4 mg/L(=2-4 ppm)の濃度でもフッ化物(ここでは無機のフッ素元素)に無視できない健康への悪影響があることを認めたものです。水道水へ添加するフッ素濃度は米国では 0.7 〜1.2 mg/L ですが、一方で、子供は体重あたりで大人の3〜4倍もの水を飲むという事実を認めており、スポーツをする人や屋外で仕事をする人も多く水を飲み、腎臓の機能が低下している人にはフッ素の蓄積が多くなる事実も認めています。従って 2-4 mg/ml で有害性があるという報告は決して他人事ではないのです。私は、水道水フッ素化を長く実施してきた米国で、フッ化物の過剰摂取による害作用がついに無視できなくなったのだと思います。日本でも、水道水に含まれる汚染物質としてフッ化物の濃度を規制しており、フッ素の許容汚染物質濃度を0.8 mg/L以下と定めています。水道水フッ素化を推進している学者たちは、虫歯を防ぐためと称して、“この濃度までならフッ化物を添加してよい”と、許容汚染物質濃度を“許容添加濃度”と見なし、行政もそれを認めてしまっています。現在、群馬県の下仁田町で水道水フッ素化が計画されているようです。住民の方々が、フッ化物のもつ有害作用を知り、驚くほどの多量のフッ化物を無駄(私の計算では、投入した99.8%以上は虫歯予防とは関係なく、下水に行きます。私が仙台市の水道統計を用いた推計の論文をご参照下さい。)に水源に投入することになります。しかも最近は子供の虫歯は少なくなって、水道水フッ素化の有効性がそれほど見込めないという現実をも知っていただきたいと思います。日本では水道水フッ素化は米軍基地以外では一ヶ所も実施されていません。米国では、自治体が水道水フッ素化の実施か非実施、継続か中止かを投票で決める場合、60〜75%のケースで非実施あるいは中止とされているのです。美味しいネギやコンニャクなどの農産物の産地として、また歴史と自然に恵まれた下仁田町が、汚染物質の水道水への投入で日本唯一の自治体にならなければならない理由はないと思います。

 ★ EPA=Environmental Protection Agency:環境保護庁、職員数18,000人。
 ★ NRC=National Research Council:米国科学アカデミーの中の1組織。
 ★ Fluoride: フッ化物で無機のフッ素化合物、例えばフッ化ナトリウム。
 ★ 濃度表現で□mg/Lとあるのは、フッ素元素が□mg/L含まれていること。


速報:Date: March 22, 2006
Contacts: Bill Kearney, Director of Media Relations
Christian Dobbins, Media Relations Assistant
Office of News and Public Information
202-334-2138; e-mail: news@nas.edu

  飲料水のフッ化物のためのEPAの基準は(健康を)保護しない
  “歯のエナメル質を損傷し、高濃度では骨折が懸念される”


 ワシントン発ーー合衆国の環境保護庁(EPA)の飲料水に許可されているフッ化物の最大量ーー飲料水1リットル当たりフッ化物が4ミリグラム(注:ここではFluorideをフッ化物でなくフッ化物の中のフッ素元素の意味で使っています。)ーーは健康に対する害作用を防止しないーーと米国アカデミーの研究評議会が出した新しいレポートは述べています。
 
 ごく最近のデータによると、ちょうど20万人以上のアメリカ人は、水源におけるフッ化物濃度が4mg/Lかそれ以上の飲料水を飲んでいる。レポートを書いた委員会は、現在の最大許容濃度にさらされている子供たち(注:exposeさらされているとは、飲むだけでなく、炊事に用いたり、その他、間接的に体に入るあらゆる種類の使用法を含むという意味だと思います。)は、高度の歯牙エナメル質フッ素症(歯の脱色、エナメル質損傷と歯の小さなくぼみー小窩ーによって特徴づけられる)を来す危険性が高いと記しています。そして、大多数の委員は、一生涯にわたってそのように高濃度のフッ化物を含む水を使用する人々は、骨折を起こす危険性が高いと断定しました。
 
 このレポートは何百万人ものアメリカ人が飲んでいる人工的にフッ化物を添加された水道水の健康への危険性または有益性を検討したものではありません。フッ化物を添加された水道水の場合は、フッ素を 0.7 〜1.2 mg/L 含みます。多くの自治体が歯科衛生目的のためにフッ化物を水道水に添加していますが、特定の地域の給水源、または個々の井戸の水には、自然由来のフッ化物が高濃度に含まれていたり、産業汚染によって飲料水のフッ化物濃度のレベルが上がることもあります。量が多いとフッ化物は有毒になりうるので、健康への害作用を防止しようと、EPAはその濃度に上限を定め、最大汚染物質濃度を決めているのです。
 
 飲料水中のフッ化物についてのEPAの最大汚染物質濃度は現在、4 mg/L になっていますが、過剰なフッ化物との関連がある歯牙への美容的な影響を防ぐために、EPAはいわゆる二次的な基準、2 mg/L という濃度を定めています。ごく最近のデータによると、およそ140万人のアメリカ人が 2 mg/L のフッ素濃度の水を用いています。
 
 1993年に当研究評議会は、それまでのEPAによるフッ化物の最大汚染物質濃度を検討し、それがさらなる研究が明らかにするまでの臨時の基準であるとしました。いくつかの研究がされた今、飲料水の安全法(Safe Drinking Water Act)が定期的な再評価を定めていることに従い、EPAは当研究評議会に新たな調査を依頼しました。
 
 アメリカ合衆国では、フッ化物への暴露は大部分が飲料水とその他の水性の飲料の消費によります。しかしそれに歯科関係の製品や食物やその他のものも同様に加わります。フッ化物を非常に多く摂取する可能性のある集団は、彼らの飲料水が高濃度のフッ化物を含むか、運動や屋外での仕事のため、あるいは医学的状態により平均的な人々より多くの水を飲む人々です。幼児と小児は、体重当たりで比較すると、大人の3〜4倍もの多くのフッ化物を摂取します。また子供たちは多分、大人より普通以上の歯磨剤を使ったり、それを飲み込み、歯科医からフッ素を用いた治療を多く受けます。フッ化物は長期にわたり骨に蓄積するので、お年寄りやフッ素を尿へ排出する能力が低い高度の腎臓障害を持った人々は、骨におけるフッ化物の濃度が上昇します。
 
 EPAの基準に近い飲料水のフッ化物濃度の健康への害作用を評価するとき、委員会は他のソースから総量として同量のフッ化物摂取をする集団を、飲料水のフッ化物濃度が低い集団として想定しました。(注:やや分かりにくい表現ですが、飲料水からのフッ化物摂取だけが多い集団を独立して検討したということと考えられます。)
 
 新しいレポートによれば、平均して 4 mg/L、又はその以上のフッ化物濃度の飲料水を使用している地域では、およそ10パーセントの子供たちに高度の歯牙エナメル質フッ素症が発生します。前回の評価では、エナメル質フッ素症(重大なものを含む)の全てのケースが、歯の黄色から茶色の着色のため美容的に不愉快ではあるが、健康には悪い影響はないとされました。しかし今回、委員会はエナメル質の1つの機能が歯の表面とその下にある歯の組織を腐敗と感染から保護することにあるので、エナメル質障害のひどいケースには健康上害作用があると結論づけました。“高度のエナメル質フッ素症に起因する歯への障害は、健康上の害作用のリスク評価の定義に合致するもので、フッ化物の毒性である”と、委員会は報告しました。12人の委員のうちの2人は、健康上の害作用とみなす高度のエナメル質フッ素症には、エナメル質の障害だけで十分だとする考えに反対し、それを美容上の問題と見なしました。しかし、彼らも、この不必要な状態の発生を防ぐためにEPAの最大汚染物質濃度は下げるべきであるとの考えには同意しました。
 
 以前の調査では、水1リットルにつきフッ素を2ミリグラムを含む地域では、15パーセントまでの子供たちに中程度の歯牙エナメル質フッ素症を認めると報告しました。この状態は美容的な理由で嫌われる歯の脱色につながるけれども、これを健康上の害作用に分類するためには十分なデータがないとしました。
 
 委員会は、4 mg/L かそれ以上のフッ化物濃度にさらされた人々では、骨折を起こす危険性が増加するといういくつかの報告があることを付け加えて記しています。骨に蓄積したフッ化物は骨密度を増やすけれども、特定の状況のもとではそれが骨を弱め、骨折を増す証拠があります。大部分の委員は、フッ化物濃度 1 mg/L の水にさらされるグループと比較して、4mg/Lまたはそれ以上のフッ化物濃度に生涯さらされる集団では、より多くの骨折を経験することが予想されると結論しました。しかし12人の委員のうちの3人は、“EPAの4mg/Lの制限は骨折を予防しないかもしれない”という結論を支持するだけでした。彼らは、骨折が増加する危険性があるという結論を出すにはもっと多くの証拠が必要であると言いました。委員会は 2 mg/Lのレベルで骨折の危険が増すという結論を出すには、データは十分ではあるとしました。
 
 この報告では、骨格のフッ素症や骨・関節の状態と長期高濃度のフッ化物への暴露との関連についても調査しました。骨格のフッ素症の最も重症なものは米国では稀であると、委員会は記しています。重症になるより以前の早期の病態が、4mgの/Lのフッ化物を含む水を飲む合衆国の住民に起こっているかどうか、決定することができず、さらなる研究がこの領域で必要であると述べています。
 
 フッ化物が癌(特に骨の)を引き起こす作用があるかどうかに関する証拠は確定的でなく、意見はまちまちであると、委員会は付け加えています。ハーバード大学の歯学部で進行中の研究は、この夏には発表されることになっていますが、それはフッ化物の発癌性を研究する上で役立つでしょう。
 
 この委員会の調査は、米国環境保護局によって資金援助されました。米国研究評議会は、米国科学アカデミーと米国工学アカデミーの主要な機関です。そしてそれは議会憲章のもとで、科学とテクノロジーの分野でアドバイスを提供する民間の非営利組織です。委員会の委員の名簿を以下に記します。
 
『Fluoride in Drinking Water: A Scientific Review of EPA's Standards』は、The National Academies Press(電話202-334-3313または1-800-624-6242)から入手可能です。

国家研究評議会:NATIONAL RESEARCH COUNCIL
地球と生命研究に関する部門:Division on Earth and Life Studies
環境研究と毒性学に関する会議:Board on Environmental Studies and Toxicology
飲料水中のフッ化物に関する委員会:Committee on Fluoride in Drinking Water

John Doull, M.D., Ph.D. (chair) 委員長の記者会見記事
Professor Emeritus of Pharmacology and Toxicology
University of Kansas Medical Center
Kansas City

Kim Boekelheide, M.D., Ph.D.
Professor, Department of Pathology and Laboratory Medicine
Brown University
Providence, R.I.

Barbara G. Farishian, D.D.S.
Dentist
Washington, D.C.

Robert L. Isaacson, Ph.D.
Distinguished Professor, Department of Psychology
State University of New York
Binghamton

Judith B. Klotz, Dr.P.H.
Adjunct Associate Professor, Department of Epidemiology
University of Medicine and Dentistry of New Jersey
Piscataway

Jayanth V. Kumar, D.D.S., M.P.H.
Director, Oral Health Surveillance and Research Unit
Bureau of Dental Health, New York State Department of Health
Albany

Hardy Limeback, D.D.S., Ph.D.
Associate Professor and Head of Preventive Dentistry
University of Toronto
Toronto

Charles Poole, M.P.H., Sc.D.
Associate Professor, Department of Epidemiology
School of Public Health, University of North Carolina
Chapel Hill

J. Edward Puzas, Ph.D.
Donald and Mary Clark Professor of Orthopaedics
School of Medicine and Dentistry, University of Rochester
Rochester, N.Y.

Nu-May Ruby Reed, Ph.D.
Staff Toxicologist, Department of Pesticide Regulation
California Environmental Protection Agency
Sacramento

Kathleen M. Thiessen, Ph.D.
Senior Scientist, Center for Risk Analysis
SENES Oak Ridge Inc.
Oak Ridge, Tenn.

Thomas F. Webster, D.Sc.
Assistant Professor, Department of Environmental Health
Boston University School of Public Health
Boston

RESEARCH COUNCIL STAFF
Susan N.J. Martel
Project Director

訳文の文責;加藤純二

【2004年5月5日作成←お詫びと訂正:2006年5月5日作成】

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