水道水とフッ素(フッ化物)に関する法令と見解


 これまでフッ素(フッ化物)を虫歯に利用する方法として───
 
 ・水道水のフッ素濃度調整(フロリデーション)
 ・フッ素洗口法
 ・フッ素塗布法
 ・フッ素配合歯磨き剤(ペースト)の使用
 
    ───をあげましたが、後者の3つの方法は自らの判断で使用するか否かを決定することが出来ます。しかし水道水のフッ素濃度調整(フロリデーション)においては自分の住んでいる地域の給水にフッ化物が添加されてしまいますと、それを飲用したくないと人々の選択の自由は奪われてしまいます。

 現在の日本の水道給水
 
 現在、日本の水道給水は「水道法」(昭和32年6月15日法律第177号) 及び「水質基準に関する省令」(平成4年12月21日厚生省令第69号) により水質基準が定められ、給水要件となっています。


「水道法」(昭和32年6月15日法律第177号)

第4条
 水道により供給される水は、次の各号に掲げる要件を備えるものでなければならない。


 病原生物に汚染され、又は病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を含むものでないこと。


 シアン、水銀その他の有毒物質を含まないこと。


 銅、鉄、弗素(フッ素)、フェノールその他の物質をその許容量をこえて含まないこと。


 異常な酸性又はアルカリ性を呈しないこと。


 異常な臭味がないこと。ただし、消毒による臭味を除く。


 外観は、ほとんど無色透明であること。


 前項各号の基準に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。



「水質基準に関する省令」(平成4年12月21日厚生省令第69号)

 水道法(昭和32年法律第177号) 第4条第2項の規定に基づき、水質基準に関する省令を次のように定める。

 水道により供給される水は、次の表の上欄に掲げる事項につき同表の下欄に掲げる方法によって行う検査において、同表の中欄に掲げる基準に適合するものでなければならない。

1 一般細菌 1ml の検水で形成される集落数が100以下であること。 標準寒天培地法
2 大腸菌群 検出されないこと。 乳糖ブイヨン―ブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地法又は特定酵素基質培地法
3 カドミウム 0.01mg/l 以下であること。 フレームレス―原子吸光光度法、誘導結合プラズマ発光分光分析法(以下「ICP法」という。)又は誘導結合プラズマ質量分析法(以下「ICP−MS法」という。)
4 水銀 0.0005mg/l 以下であること。 還元気化―原子吸光光度法
5 セレン 0.01mg/l 以下であること。 水素化物発生―原子吸光光度法又はフレームレス―原子吸光光度法
6 0.05mg/l 以下であること。 フレームレス―原子吸光光度法、ICP法又はICP−MS法
7 ヒ素 0.01mg/l 以下であること。 水素化物発生―原子吸光光度法又はフレームレス―原子吸光光度法
8 六価クロム 0.05mg/l 以下であること。 フレームレス―原子吸光光度法、ICP法又はICP−MS法
9 シアン 0.01mg/l 以下であること。 吸光光度法
10 硝酸性窒素
及び
亜硝酸性窒素
10mg/l 以下であること。 イオンクロマトグラフ法又は吸光光度法
11 フッ素 0.8mg/l 以下であること。 イオンクロマトグラフ法又は吸光光度法
12 四塩化炭素 0.002mg/l 以下であること。 パージ・トラップ―ガスクロマトグラフ―質量分析法(以下「PT―GC―MS法」という。)又はパージ・トラップ―ガスクロマトグラフ法(以下「PT―GC法」という。)
13 1,2−ジクロロエタン 0.004mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法
14 1,1−ジクロロエチレン 0.02mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、ヘッドスペース―ガスクロマトグラフ―質量分析法(以下「HS―GC―MS法」という。)又はPT―GC法
15 ジクロロメタン 0.02mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
16 シス−1,2−ジクロロエチレン 0.04mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
17 テトラクロロエチレン 0.01mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
18 1,1,2−トリクロロエタン 0.006mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法又はPT―GC法
19 トリクロロエチレン 0.03mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
20 ベンゼン 0.01mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
21 クロロホルム 0.06mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
22 ジブロモクロロメタン 0.1mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
23 ブロモジクロロメタン 0.03mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
24 ブロモホルム 0.09mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法、HS―GC―MS法又はPT―GC法
25 総トリハロメタン(クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン及びブロモホルムのそれぞれの濃度の総和) 0.1mg/l 以下であること。 クロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン及びブロモホルムごとにそれぞれ二十一の項、二十二の項、二十三の項及び二十四の項の下欄に掲げる方法
26 1,3−ジクロロプロペン 0.002mg/l 以下であること。 PT―GC―MS法
27 シマジン 0.003mg/l 以下であること。 固相抽出―ガスクロマトグラフ―質量分析法又は固相抽出―ガスクロマトグラフ法
28 チウラム 0.006mg/l 以下であること。 固相抽出―高速液体クロマトグラフ法
29 チオベンカルブ 0.02mg/l 以下であること。 固相抽出―ガスクロマトグラフ―質量分析法又は固相抽出―ガスクロマトグラフ法
 上記 1〜29 の項目は、生涯にわたる連続的な摂取をしても人の健康に影響が生じない水準を基とし安全性を十分に考慮して基準値が設定されている「健康に関連する項目」(29項目)です。30〜46 の項目は、いわゆる「水道水が有すべき性状に関連する項目」で、省略しました。
※ 詳しくお知りになりたい方は社団法人 日本水道協会、またはお近くの水道局のホームページ等をご参考ください。






 さて、平成12年11月18日付の新聞各紙で「厚生省が水道水へのフッ素添加を容認した」と伝えられました。ここに厚生省(現:厚生労働省) 水道整備課の見解を掲載します。

厚生省(水道整備課)の見解

1.  水道行政の目的は清浄な(人の健康を害しない)水の供給であることから、フッ素添加(添加後の濃度が0.8mg/L以下であることが必要)により虫歯を防止する場合には、水道利用者の理解を得て実施されるべきと思料。
2. なお、水道行政の観点からは、

(1)  水道行政の目的は清浄な水の供給であり、また水道水は不特定多数の国民により多目的に使用されるという性格を持っていることから、浄水処理のための凝集剤や消毒のための塩素等を除いては基本的に薬品を添加すべきではない、

(2)  フッ素濃度を一定の値(虫歯が予防でき班状歯を生じない濃度)に維持管理するための運営技術上の問題がある、と考えており、フッ素添加を積極的に推進する立場にはない。


 また、社団法人 日本水道協会 の見解も掲載します。この日本水道協会の見解は昭和50年に出されたものですが、現在もこの見解が水道界における基本的な考え方となっているそうです。


社団法人 日本水道協会の見解

1.  昭和50年1月29日に、日本水道協会新潟県支部長である新潟市長から、日本水道協会会長宛に、「上水道へのふつ素添加問題について」調査依頼があり、衛生常設調査委員会で検討した結果、昭和50年9月9日、委員長は日本水道協会会長に 2. のように回答し、これに基づいて、昭和50年10月13日、本会専務理事が新潟市長に 3. のように回答したものである。
2. 「上水道にふつ素を添加することについて(回答)

 小児の疾病については、その予防的観点から幾多の措置要因が考えられ、う歯予防もまた単にふつ素の添加のみで解決し得ないことは歯科医学の立場からの学説的にも意見のあるものと思量されます。したがって、う歯対策についても広く公衆衛生的対策を考慮すべきであり、当委員会で慎重審議の結果、貴書簡に示された判断(別紙1.フツ素添加上の問題点)を全面的に支持することになり、水道水に特別にふつ素添加の必要性を認めるものでないと考えます。
3. 「上水道へのふつ素添加問題について(回答)

 むし歯予防のため水道水にフツ素を人為的に添加するにあたっては、貴書簡別紙1のフッ素添加上の問題点があり、これら問題点の解決をみることなしにフツ素を水道水に添加する必要性は認められません。





 別紙1 フッ素添加上の問題点

@ 総合医学的に十分な検討が必要である。

 フッ素は消毒用塩素のように単一作用だけでなく、完全無害といいきれない。
A 最適添加量

 副作用がなく、かつ、むし歯の予防に最も効果的な注入率が設定されなければならない。なお、副作用は地域、水質、食習慣などによってことなるといわれている。
B 維持管理の複雑化

 注入及び注入施設の管理のほか、全給水区域に均等濃度を維持しなければならない関係上、原水及び管末等の水質検査を常時行わなければならない。
C 水道法上の解釈

 水道水は本来多目的に使用されるもので、清浄であるべきである。また、水道法上0.8PPM(mg/L)と定められたのは、自然水に含まれるフッ素の限界点を想定したもので、人為的な注入の上限を想定したものでない。
D むし歯予防に水道へのフツ素添加が最適か

 歯へフッ素を補給する方法には食物への混入、ウガイ、ハミガキ、局所塗布、内服、水道水への添加等があるが、これらも総合的に検討されるべきである。
E 薬品、注入施設、維持管理等の費用負担

 フッ素添加をすることによって当然にこれらの経費が想定されるので、仮に水道事業が負担するとしたら水道料金への影響が考えられる。
F 住民の合意

 水道へフッ素を添加することによって、個人の意志の有無にかかわらず、飲用を強制されることになるので全住民の合意が要件である。
G 投資効果

 給水される水のうち飲用されるのはわずか1パーセント程度であり、さらに、フッ素の効果は全利用者に有効なものではなく、およそ15歳以下の者のみに効果があるともいわれている。従って添加されたフッ素のうち99.5パーセント以上が活用されずに捨てられる効率の悪さがある。

 また、自治労連公営企業評議会「水道水への『フッ素添加』問題に対する見解(案)」も以下の通り公表されています。

水道水への「フッ素添加」問題に対する見解(案)

2000年12月8日 自治労連公営企業評議会    

 T.はじめに
 
 厚生省が11月17日に、水道水へのフッ素添加を容認する見解を発表し、虫歯予防や水の安全性をめぐり議論と関心が高まっています。
 
 私たち公企評は、水道水の「生産と供給」に従事し、「命の水」を守る労働者として、(1)水はすべての生物の源であり、(2)かけがえのない地球環境を守りながら、(3)人類の使用する水道水は限りなく自然水に近い供給をめざしています。
 
 この見地から、水道水へのフッ素添加には基本的に反対を表明するものですが、地域住民の理解と合意をめざす立場から「公企評の見解」を明らかにするものです。

 U.「フッ素添加」問題をめぐる動向
 

(1)  フッ素は自然界に存在し、海藻や魚、お茶などにも含まれ、虫歯予防の効果(酸の浸食を防ぐ性質)があることは20世紀初めから知られていました。
 米国では1945年から虫歯予防のため水道水に添加され、世界保健機関(WHO)は69年に「水道水へのフッ素利用の推進」を決議し、現在38カ国で添加されているといわれています。
(2)  日本では、1951年から京都市山科地区などで試験的に水道水フッ素化が行われていました。しかし、50年代から70年代にかけて「高濃度のフツ素を含んだ水道水が原因で斑状歯(歯が白濁するなど変色)になった」として兵庫県宝塚市の住民が訴訟(71年)を起こすなど問題が表面化しました。WHO決議に日本も賛同しましたが、この事件を契機にフッ素利用は、歯磨き粉や歯面への塗布、添加水でのうがい等を中心に進められてきました。
(3)  昨年末、日本歯科医学会が「虫歯予防のためフツ素利用を推奨する」との見解をまとめ、厚生省が今夏、沖縄県具志川村からの要望を受け「水質基準以下での容認」との見解を表明したことで再びクローズアップされてきたものです。
(4)  厚生省の見解は、水道水質基準(0.8ppm以下)の厳守を統一見解にしていますが、歯科保険を管轄する健康政策局は推進の方向であるのに対し、水道行政を管轄する生活衛生局では「望ましくない」と否定的態度をとっています。このため、「相談があれば技術的に支援する」が「積極的に自治体に勧めるわけではない」(津島厚相)と自治体任せの曖昧な態度をとっています。日本水道協会は「人為的添加の必要性は認められない」(75年10月)としています。
 
 推奨する人たちは、一部の学者や医師、議員ですが、その論旨は@0.5〜1ppm前後の水を毎日飲み続けると、虫歯を4〜5割減らせる、A海外の疫学調査で効果や安全性の評価は定着している、B簡便で安全、公平で費用が安い虫歯予防というものです。いくつかの自治体や議会で決議しているところもあります。
 
 これに対し、反対の意見は、@発ガン性などの懸念があり安全性は未確立、A日本の食生活からフツ素の摂取量が多く、重複使用による疫学的調査は行われていない、B子供の虫歯は減少しているなどというものです。反対運動もねばり強く取り組まれ、74年には新潟大学歯学部予防歯科などによる県議会や市長への「水道水添加」の働きかけに対し、食生活改善普及会や市民団体による反対署名運動が展開され、新潟水労も「見解表明」するなど積極的な役割を果たしてきています。81年には「日本フツ素研究会」が設立され、医学・歯学からの探求もされて「疑わしきは使用せず」の声を上げています。今回の「厚生省見解」に対しても、日本主婦連合会などが反対の行動を起こしています。

 V.水道の性格と任務
 
 第1に、水道は「命の水」として、人間生活に必要不可欠のものであり、他に代替できるものはなく、地域住民に安全で清浄な水の供給を保障するものです。
 
 第2に、水道の目的は、公平な供給をはかり「もって、公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与」するものです。
 
 第3に、水道は給配水管を通じて、多数の使用者に一様に供給するものであり、個別の選択が不可能なものです。
 
 第4に、水道の経営原則は、経済性と効率性を発揮し、公営企業として独立採算制であることです。

 W.「フッ素添加」の問題点
 

 第1に、水道の持つ特性と果たすべき使命から、「フツ素添加」はすべきではないと考えます。
 
   @ 水道は、人間が生きるための水の供給と、伝染病の予防など「公衆衛生」の維持・向上を原点にしています。虫歯予防やビタミン注入など健康増進は本来の目的ではありません。従って、薬品注入は消毒のための塩素など必要最小限とすべきです。

A しかも、虫歯予防などは他に代替措置が検討されますが、水道には他に代替できるものがありません。

B 水は地球に生存する生物の共有財産です。水道水への薬品注入などは必要最小限にし、限りなくシンプルで自然水に近い供給を理想とすべきです。今日、自民党政治と大企業による利潤第一主義の経済活動は「環境ホルモン」などさまざまな環境問題を起こしています。「自然水に近い供給」は、かけがえのない地球環境を守る課題とも深く結びついています。
 
 第2に、安全性について問題が解決していないことです。
 
 @斑状歯や骨硬化症、A発ガン性や腎臓病患者への影響、B地域による日常生活におけるフツ素摂取量の差異、C他の化学物質との複合汚染など疑念や危険性、が指摘されています。学者や医師・歯科医師の間でも意見の対立があります。「疑わしきは使用せず」です。
 
 第3に、水道水の公平な供給に反することです。
 
 水道はすべての受水者に一様に供給されます。価値観など多様化の時代に「フツ素添加」を好まない人に添加水道水を強制する権利は何人にもありません。
 
 第4に、経済性と効率性に著しく反することです。
 
 水道水の用途は多様であり、人体に摂取(飲食)する量はわずか1%で、他の用途(洗濯、風呂、水洗トイレ、掃除、洗車など)が大部分です。フツ素添加は人体に摂取されてこそ効果があるわけですから、99%は無駄に流されることになります。公営企業は独立採算性が原則ですから、その分、水道料金に転嫁されることになってしまいます。仮に、東京都では薬品費だけで年間5億円程度(東水労試算)といわれています。
 
 第5に、技術的にも困難であることです。
 
 フッ素添加の効果は0.5ppm以上といわれていますから「0.5〜0.8ppm(水質基準)」を保持し、全地域に24時間安定して送水することは困難です。ある時間ある地域に濃度の高い添加水を送水したら事件です。設備と人員など万全な体制には大きな費用負担となります。

 X.「命の水」をまもる国民的合意を
 
 「フッ素添加」問題は、これまで限られた地域での問題として扱われてきましたが、日本歯科医学会や厚生省の「見解」が出されて全国的に関心と注目を集めてきています。
 
 水道行政は、「自治体固有の事務」としてあります。「フツ素添加」問題についても、住民自治の立場から、安全性や費用負担などを含め、住民合意を基本とすべきです。
 
 水道法第1条では、「清浄にして豊富低廉な水の供給」を宣言しています。しかし、今日の社会情勢と私たちの生活環境は、水道をめぐっても、自然環境の破壊や水質汚濁、災害対策や繰り返される水道料金値上げと「料金格差」問題など、さまざまな問題を引き起こしています。
 
 公企評は前述した見解を表明するものですが、今回の「フツ素添加」問題と結合させて、水道そのもののあり方について、全国の公企労働者、地域住民や学者・市民団体、地方議会などで、相互理解と合意づくりの討論を呼びかけるものです。

  

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