インフルエンザとタミフルについて
 

 1)タミフルはインフルエンザの特効薬か?
 
 今期、平成18年末から平成19年春までのインフルエンザの流行は例年より遅く始まり、つい最近ようやく下火になりつつあります。インフルエンザについては、話題が多く、いろいろな問題も持ち上がっています。ここにインフルエンザの予防や治療について、一開業医の考え方を逐次、書き加えていきたいと思います。

 平成19年3月29日、仙台市医師会から会員へ「インフルエンザ情報・第10週」が送られてきました。要約すると、今期のインフルエンザはA香港型が主で6割、B型がその半数の3割、Aソ連型は1割程度だったということです。

 
 タミフルは、インフルエンザウィルスの総てのタイプに効くものではありません。新薬承認情報によれば、タミフルはAソ連型ウィルスには効くが、A香港型ウィルスやB型インフルエンザには有効性が低いのです。 (臨床現場ではA香港型もAソ連型もA型としてしか診断はできません。両方をひっくるめてタミフルが有効としたのは仕方がないにしても、有効性が低いことを認めていながら、B型にも適応を認めたのは不思議なことです。これらのことは次のホームページに詳しく書かれています。

新薬の承認に関する情報(日本ロシュ社)

厚生労働省のホームページの審査結果(概略のみ)

 従って、今期流行の主流であったインフルエンザ(インフルエンザと診断された患者さんの約9割)には有効性が低いにもかかわらず、医師は患者さんに「特効薬」だからと処方が続いたことになります。今期の流行の主流がA香港型であることが分かった時点で、タミフルの処方が今期のインフルエンザの治療法としては有用性が低いことを広報すれば良かったと思います。そうすれば、値段の高い医薬品(タミフルの薬価は1カプセル316.4円)の使用量を減らせたし、それに応じて、有害作用の発生数も減少したことでしょう。勿論、問題の根本的解決ではありませんが。


 2)インフルエンザ治療の経済学ー内科診療所での実際
 
 医療機関(内科診療所、小児科診療所の場合ですが)で医療費がどのように計算され、患者さんへ、あるいは支払い基金へ請求されているかを、インフルエンザ、風邪症候群の場合について、示します。

  インフルエンザ、風邪症候群の診療費用ついて

 
 ワクチンを接種し、それでもインフルエンザにかかり、インフルエンザ抗原検査をして、インフルエンザAかB型であることが判定し、タミフルを処方された場合(大人で、私費であるワクチン料金を除き)、合計9,580円の医療費がかかることになります。しかし、本人の負担は3割の場合、2,870円だけです。
 もし、日本以外の国で、風邪の流行期に熱が出たとき、仕事や学校を休んで、消化のよい水分の多い食事をとっていれば、医療費はゼロです。幸か不幸か、日本では風邪を投薬で(症状を)抑えることが、治療であると多くの人々が思いこんでいます。ウィルス感染の本当の特効薬は体内で作られる抗体なのですが。(以上、平成19年3月30日記)

 3)タミフルは幻覚・異常行動の原因か?
 
 ここ仙台市宮城野区で、2月27日未明、中学2年の男子生徒がマンション11階から転落して死亡しました。タミフルを2回、1カプセルづつ服用した後のことでした。午前1時20分頃、「トイレに行く」と告げて自宅を出て、無言のまま外廊下の手すりを乗り越えて転落したそうです。このような転落事故はかってのインフルエンザ脳症の時には、ほとんど問題になりませんでした。それでも厚生労働省の研究班は、タミフルと幻覚・異常行動との因果関係は明かでないと結論づけていました。それ以後、厚生労働省が「虚心に原因を調査したい」と方針転換したのは、3月22日のことでした。

 ここまで書いたところで、3月31日の新聞の一面トップ記事を見て、びっくりしました。
 「中外製薬寄付金 タミフル研究班流用 627万円 厚労省も黙認」 という見出し。 ーーインフルエンザ治療薬「タミフル」の副作用を調査している厚生労働省研究班の06年度予算1027万円(30日現在)のうち、627万円は輸入販売元の中外製薬が研究班員の所属機関に寄付した資金だったことが分かった。中立性が求められる副作用調査に、調査対象企業からの資金を使っていたことになるが、研究班から事前に相談を受けた厚労省の担当部局も黙認していた。調査委の中立性を根幹から揺るがし、同省の姿勢にも批判が高まりそうだ。ーー

 記事の中で、注目すべきは、研究班で統計処理を受け持ったのが「統計数理研究所」の藤田利治教授ですが、この研究所へ中外製薬から6,000万円が寄付され、そのうち627万円が流用されていたという部分です。寄付金額の多さ、流用の黙認、これらは研究班の判断が、製薬企業側に有利に処理されるのに影響しなかったか?そのような「勘ぐり」が自然に生まれても当然でしょう。

 特定の商品などについての安全性、使用法(ガイドライン)について、公的機関や学会から「判断」をゆだねられる科学者、専門家は、まず関連する企業や団体からの資金提供についての情報を公開し、公的機関や学会はできるだけ関連する企業からは中立的な専門家を選んで、判断をゆだねるべきだというものです。このような科学者、専門家の微妙な立場を利益相反といいます。データが歪められたとか、科学的不正が行われたかとかいうことは問題にしていないそうです。日本では、今回のように人選が終わって、後になって「利益相反」問題があったことが分かったり、「お金はもらっていたが、データ処理は正しかった」とか報道されています。しかし本当の問題は、それ以前の「人選の問題」なのです。
 厚生労働省に限らず、政府諮問機関に選ばれる科学者、研究者、専門家は、今までは逆に、利益相反の問題を抱えた人が多かったのではないでしょうか?問題の根は深く、しかも今度は金額の多寡よりも、人命がかかっていました。(3月31日記)


 4)薬剤師さんからE-Mailで次のようなご意見をいただきました。(9月26日)
 

 「…インフルエンザ、風邪症候群の診療費用について」の具体的な内容として、小児の風邪症候群の場合、小児用(幼児用)PLの処方例があげられております。それはそれで間違いではないのですが、インフルエンザの治療との対比で議論されている場面ですので、タミフルと小児用PLの費用の差との誤解をまねくおそれがあります。小児用(幼児用)PLには、サリチルアミドが含まれており、ライ症候群との関連で、アリチル酸系製剤は原則として15歳未満の水痘、インフルエンザの患者には投与しないこととなっておりますので、可能であればその旨注釈をつけていただけると誤解をまねかずにすむのではないかなどと考えてしまいました。インフルエンザの場合、解熱剤としてはアセトアミノフェンが推奨されておりますので、表記をアセトアミノフェンに変更していただけるか、上記注釈を書き添えていただけると、より完璧なものとなるのではないかなどと思いましたので、思いきってメールさせていただきました。ご検討いただけると幸いです。…」

 お答え:「小児用(幼児用)PLには、サリチルアミドが含まれており、ライ症候群との関連で、アリチル酸系製剤は原則として15歳未満の水痘、インフルエンザの患者には投与しないこととなっております」は知りませんでした。単に「インフルエンザ、急性上気道炎にはアセトアミノフェンを」とだけおぼえてていました。『保険薬事典』によれば、「非ピリン系感冒剤」幼児用PL1g(6.7円)にはサリチル酸アミド45mg、アセトアミノフェン25mg、無水カフェイン10mg、メチレンジサルチル酸ブロメタジン2.25mgが含まれています。急性上気道炎の幼児の患者さん(大人の患者さんでも同じことですが)が受診した場合、インフルエンザウィルスのチェックをするのは、インフルエンザの流行期で高熱の患者さんの場合ですが、インフルエンザの流行期でなくてもインフルエンザはあるし、高熱でなくてもインフルエンザであることがあります。現実問題として、流行期以外や熱がそれほどでない患者さんにはウィルス検査をしないことが多い訳で、PL顆粒がインフルエンザの患者さんに投与されていることは多いと思います。より安全を期すなら急性上気道炎の患者さんにはできるだけ解熱鎮痛剤を処方しない、あるいは処方するならとしてアセトアミノフェンだけを処方すべきということになります。PL顆粒をアセトアミノフェンに変えて計算をし直します。ご指摘、ありがとうございました。(10/2/2007)

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