ある脳循環代謝改善剤の研究会と論文


1)「ペントキシフィリン」の研究会へ出席したときのこと

 もう20年くらい昔のことですが、仙台市のあるホテルで開かれた研究会に出席したことがあります。成分名でペントキシフィリンという脳の循環改善剤の研究会でした。その頃、私は癌細胞の変形性を、固形腫瘍細胞と白血病細胞で比較する研究をしていました。用いた技術は、毛細血管と同じ直径の穴が多数開いたニュクレポアフィルターという濾過膜で、ガン細胞の浮遊液を一定の圧力でろ過し、その濾過時間を比較するというものでした。研究会では同じ方法で、赤血球の浮遊液をろ過して、その濾過スピードへのペントキシフィリンという薬剤の効果を見るということでした。私は同じ実験方法を用いているので、何か得るところはないかと出かけました。
 壇上には流体力学の専門家らしい学者やドイツ人らしい学者が4,5人並んでいました。薬剤の効果を発表していたのですが、私は濾過膜の穴のサイズが8ミクロンだというのに驚いてしまいました。赤血球の直径が8ミクロンくらいですから、この実験システムでは赤血球の変形性など反映するわけはないのです。
 質疑応答の時間になると、私はそのことを質問しました。壇上の講演者たちはお互いヒソヒソと話し合いをしていて、答えるまでだいぶ時間がたちました。そして答えは、「赤血球はいくらか凝集しているものが含まれるので、8ミクロンでも変形性が濾過時間に反映されるだろう」というものでした。私は納得できませんでしたが、質問はそれで打ち切られ、研究会は終わりました。
 ペントキシフィリンはその後、大々的に宣伝され売り出されました。医学雑誌の広告を見ると、赤血球がその直径の3分の1くらい細い毛細血管を細長く変形して流れて行く様子がカラーで描かれています。私は薬の開発の基礎データとはこの程度のものかと、内心大きな疑問を持ちました。その後、類似のプロペントキシフィリンという薬がまたドイツの製薬会社から出たのですが、日本では販売が認可されたのですが、ドイツでは有効性が認められないということで、認可されませんでした。
 現在、ペントキシフィリンは特許が切れ、トレンタール、ペンドル、アポフィリン、エリスディール、ブレンタイン、クラステー錠、プロキサール、サテライト、ペントキシフィリン錠・トーワ、セブスタン、ヨウレタール錠、テクロン、トレンエース錠、ランター錠、パピロール錠、リカブレイン錠、パントマール錠、ロリメスン錠、プロキサールカプセルとして処方されています。さらにその徐放剤も、トレンタール300、コロナフィリンL錠、テクロンL錠、ペンタフィランL錠、ホービック錠300、アラトレスL錠、セブスタンR錠、ロリメスン錠300という名前で処方されています。

(ニュース)

 平成11年9月14日の午後、厚生省から再評価の結果が発表されました。その結果は、トレンタールとその成分であるペントキシフィリンを含むすべての薬剤が薬価削除になりました。9月16日から2週間以内の薬剤回収の指示もでました。
 会社「ヘキスト・マリオン・ルセル社」からの通知は以下のようなものでした。

 「……トレンタールについては、国内での承認時並びに市販後に行われた臨床試験成績、海外で行われたプラゼボ対照比較試験成績、及び臨床薬理試験成績等から、現時点においても医療上必要かつ有用な薬剤であると考え、また、併せて新たな試験を実施することにより、その有効性を再確認できるものと判断し、試験計画案を添えて4月30日に再評価申請を致しました。………トレンタールは発売以来、赤血球変形能等の血液レオロジー因子に多角的な作用を有するユニークな薬剤として、世界100数カ国にて承認・販売され高い評価を戴いてまいりました。………永年にわたり、トレンタールをお引き立て賜りましたことに心より厚く御礼を申しあげます。……」

 小生はこの会社が厚生省を相手取り、訴訟を起こし、なお使用を求めるべきだと考えます。世界100数ヵ国にて承認・販売されているのであれば当然でしょう。また長年にわたり、この有効性が今回は証明されなかった医薬品を、処方され続けた患者さんたちも、会社と厚生省を相手取り、訴訟で、損害賠償を求めるべきでしょう。今まで払ってきた医療費の問題もあります。
 灰色の解決は、将来にまたまた同様の薬害をくりかえすだけでしょう。


 

2)ある論文の中身(準備中)

 脳循環代謝賦括剤が開発された頃、多数の臨床報告が出されました。「効いた、効いたのオンパレード」でした。なぜ薬害が日本に多発したのかを考える時、この「オンパレード」現象を見つめる必要があると思うのです。そこで、当時の代表的な論文を拾って、問題点をあげてみます。


 A)「脳血管障害に対する Vinpocetine 錠の長期投与の臨床的検討」大友英一、他。
『薬理と治療』第10巻、第5号、197〜211ページ、1982年。

 ビンボセチンとは商品名でカラン(武田薬品工業)という細粒・錠剤のことです。この論文が出たのが1999年から17年前ですから、もう特許も切れて、後発メーカーが同一薬を30品目も製造・販売しています。さて上記の論文ですが、いくつかの問題があります。

1: 治験に用いられた脳卒中患者は、浴風会病院、日本医科大学、小川赤十字病院に入院した23人の患者です。論文には以下のような記述があります。

 「なお、本調査を開始するにあたって、患者あるいは保護者より口頭にて同意を得ることを原則とした。」

 この記述は研究の重大な欠陥を示唆しているのではないでしょうか。つまり、患者からも保護者からも許可を得た証拠が残してないということを示している可能性があります。いわゆる「ボケ治療薬」を、ボケた患者に治験だということを知らせずに投与した可能性があります。私の疑念に反論するためには、論文にデータとして用いたことが明らかな患者さん、あるいは保護者からとったサインつきの同意書がどのくらいあるかを示す必要があるでしょう。巧みな表現に、同意なき「人体実験」が隠されているのではないでしょうか。

 そしてさらに別の問題も論文中にあります。(続く)

  

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