幼稚園・小学校などで行なわれる
子どもへの集団フッ化物洗口は
安全?有効?


週刊金曜日 2004年4月9日(No.503)
暮らし・くらし・KURASHl
 
加藤純二

下記は掲載された記事中の誤植等を修正し、紙幅の関係で掲載できなかった図表など、一部の内容が追加・改変されています。

 昨年から、虫歯予防のためフッ化ナトリウムの水溶液で口をすすぐフッ化物洗口が、保育・教育現場ですすめられている。有効性が喧伝されている反面、その危険性はあまり知られていない。これから新学期、あなたのお子さんはどうしますか?

 昨年1月、厚生労働省は「フッ化物洗口ガイドライン」を通達した。より詳しい参照用資料『う蝕予防のためのフッ化物洗口マニュアル』(厚生科学研究・フッ化物応用に関する総合的研究斑編)は、その数カ月前にできている。
 
 虫歯予防のため、4〜14歳の子どもたちに、保育・教育現場において、集団的にフッ化物洗口(F洗口)をさせる施策を准進させるためのものである。F洗口とは、フッ化ナトリウムの水溶液を口に含み、30秒〜1分間、歯をすすぐことをいう。週5回洗口法の場合はフッ素濃度230ppmの溶液を、週1回法では910ppmの溶液を、5〜10ml使うとされている。すでに、保育園、幼稚園、小学校などで30万人の子どもたちがF洗口を行なっており、今後、増加すると思われる。
 
 しかし、このガイドラインやマニュアルは危険性については否定しており、医学的、法的に問題がある。F洗口は@急性中毒発症の危険性がある、A発がん性を含む長期的害作用の危険性がある、B集団適用は個人の自己決定権を侵害する違法な公衆衛生政策である──からだ(注1)。

(注1):昨年8月4日付で、筆者も所属する薬害オンブズパースン会議は、これら問題点を意見書にして厚生労働省と文部科学省へ提出した。厚労省は日本口腔衛生学会に検討を依頼し、昨年11月5日付回答が今月の5日にホームページで公表されたが、内容は不十分なものだ。
 そもそもフッ化物から電離するフッ素イオンは、反応性が高く有毒である。フッ素およびその化合物は産廃施設周辺の土壌汚染対策の対象として、カドミウムなど25の特定有害物質とともに指定されている(土壌汚染対策法施行令・2002年)。また水道水の汚染物質ともされ、フッ素の水質基準濃度は、0.8ppm以下である。

“F洗口は安全”の記述はほんとう?

 マニュアルは、「フッ化物洗口液は、たとえ誤って全量(1回の使用量10ml)を飲み込んだ場合でも安全」、小学生が10mlの洗口液で週1回法を行なった場合、「1度に6〜7人分飲み込まない限り、急性中毒の心配はありません」としている。
 
 このマニュアルは、急性中毒量を体重1kgあたりフッ素2mg(2mgF/kg)としているが、この数字は100年以上前に行なわれた、体重の記載がない、大人1人だけに投与した実験をもとに推定したものである。
 
 しかし、フッ化ナトリウムの急性中毒事例を検討した歯科医の秋庭賢司氏の論文や、松本歯科大学の近藤武氏らの論文では、急性最小中毒量は0.1〜0.8mgF/kgである。
 
 実際、1987年に、新潟大学歯学部の学生実習で 0.26〜0.40mgF/kg で中毒事故が発生している(新潟県弁護士会、同人権擁護委員会が出した「要望書」・注2)。これは、週1回のF洗口で、6歳の子どもが1回分を全量飲んでしまったときの摂取量に等しい〔表1参照〕。

(注2):HPに許可を得て転載してある。
【表1】6歳児が10mlの洗口液を全量飲んだ場合のフッ素摂取量
 
年齢 6歳
体重(男女平均) 21.5
洗口液量 10ml
洗口方法 週5回法 週1回法
フッ素濃度 230ppm 910ppm
飲み込み量 100% 100%
フッ素摂取量 2.3mgF 9.1mgF
体重1kgあたりのフッ素摂取量 0.11mgF/kg 0.42mgF/kg
※急性最小中毒量を 2.0mgF/kg とすれば「安全」だが、実際に中毒が起こったとされる 0.26〜0.40mgF/kg を目安とすると、とても「安全」とはいえない。

 急性中毒とは吐き気、唾液分泌の増加で始まる。F洗口は健康な子どもに行なうものであるから、わずかでも中毒症状が現れる最小量を安全性の基準とすべきである。洗口液は、年齢が低いほど、飲んでしまう量が多いことが報告されている。また、体重も少ないので、体重1kgあたりの摂取量も増えるということだ。
 
 また、胃の中に食べ物の量が少ないとフッ素は吸収されやすく、血中でカルシウムイオンと結合する。今まで報告例がないとしても、筆者は低カルシウム血症が起きている可能性があると考えている。
 
 もし筋肉がピクピクしたり、喘鳴、四肢筋肉のこわばりなどの症状を見たらすぐ心電図をとり、波形のQとTの間が延長するかどうかをみるのがいい。採血で血清電解質を測定しても、血中カルシウムの約30〜40%は血漿蛋白質と結合しており、総カルシウムの測定では低カルシウム血症が証明されないことがあるからだ。医薬品の副作用は、調査しないと顕在化しないものである。
 
 さらにガイドラインには、「歯のフッ素症は発現しない」と記載されているが、これにも問題がある。歯のフッ素症とは、歯がつくられる時期にフッ素をとりすぎることで、歯のエナメル質が白濁するなどの形成不全がおきる状態のことをいう。
 
 日本では、4歳からのF洗口を推奨しているが、WHO(世界保健機関)のテクニカルレポート(No. 846、1994年)には、「毎日摂取されたフッ化物の全体の量によっては歯のフッ素症のリスクに寄与するかもしれない。従って、洗口は6歳より下の子どもには推奨されない」とし、「6歳」未満の子どもには禁忌である(contraindicated)」と記されている。
 
 このテクニカルレポートは、マニュアルを作った研究班の高江洲義矩主任研究員によって監修訳されているが(『フッ化物と口腔保健−WHOのフッ化物応用と口腔保健に関する新しい見解』一世出版)、6歳未満の子どもにF洗口を実施するのに不都合となるためか、「禁忌」の訳が「処方されない」とされている(注3)。

(注3):ほかに誤訳箇所が200カ所以上も見られる。2004年1月19日付で、薬害オンブズパースン会議仙台支部は、他の消費者団体、市民団体など9団体と連名で、誤訳についての公開質問書を出版社と高江洲主任研究員に送ったが、まだ回答はない(2004年4月現在)。


リスクを説明しない集団F洗口は止めるべき

 フッ化物は、食事やフッ素入り歯磨剤からのフッ素摂取を合計して考えると、水道水へのフッ素添加と同様に、発がん性を含む長期的害作用の危険性がある(注4)。
(注4):国際がん研究機構とWHO国際がん登録の資料により、米国フッ素化地域のがん発生率は高橋晄正氏らによって解析され、『フッ素研究』誌第20号(2001年)に掲載されている。
 そのリスクの可能性を考えれば、F洗口の実施においては、有効性とともに有害性についても長期のフォローを行なう必要がある。しかし、ガイドラインには「骨折、ガン、神経系および遺伝系の疾患との関連などは/疫学調査等によって否定されている」など、有害性のデータを完全に拒否する記載が並んでいる。
 
 医療や保健におけるインフォームド・コンセント(説明と同意)には、危険性に関する情報が必要不可欠である。しかし、洗口剤の添付文書には「過敏症状が現れたとの報告があるので、そのような場合には、ただちに洗口を中止させること」と記されているのに、ガイドラインには「アレルギーの原因となることもない」と書かれており、有害性の存在をまったく認めようとしない。
 
 保護者へのアンケート調査についての「啓発事業による情報提供が十分ではないとき、あるいはフッ化物洗口に関する誤った情報が流れているときには、保護者の意向を正確に把握することが困難であるから、避けるべきである」とのマニュアルの記述は、拒否権行使者の存在を顕在化させまいとするものではないか。
 
 佐賀県鳥栖市で開かれた最近の推進派のシンポジウム「フッ素、正しい情報を見分けよう!」の内容が『佐賀新聞』(昨年12月14日付)に掲載されている。マスコミで報道されただけに影響は大きいと思われる。
 
 そこに図示されているデータをみると、F洗口を1992年から行なっている有明西小学校の虫歯数は半減している。F洗口には非常に効果があるようにみえる。しかし、そもそもF洗口を行なっているところは、全国的にはほんのわずかであり(4〜14歳人口の2〜3%)、F洗口をしてもしなくても全国的に虫歯数は半減している〔表2参照〕。

【表2】12歳児の1人平均虫歯経験数の推移
(文部科学省『学校保健統計調査』より)
 

有明西小学校 学校保健統計調査
(全国データ)
対象 小学6年生
(11〜12歳)
12歳
1992年

2002年
4.19本

2.11本
4.17本

2.28本

10年で50.4%に減少 10年で54.7%に減少

■下記が佐賀新聞(2003年12月14日付)に掲載された図
 
有明西小学校では、平成4年度からフッ素洗口を実施しています。1人平均むし歯数は、約半分になりました。


■12歳児のDMF歯数の経年変化(全国及び新潟県のデータ)
 
12歳児のDMF歯数の経年変化

 一般的にF洗口には、30〜80%の虫歯数の減少効果があるとする報告が多い。しかし前記のような自然減やF洗口にともなって行なわれる歯科衝生指導の効果が混入しており、F洗口の有効性が非科学的に過大に評価されている懸念がある。
 
 虫歯にはおやつのとり方、歯磨き、かかりつけ歯科医による早期治療などで、十分対応できると思う。
 

【2004年5月作成】

 

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