フロリデーションの和訳を
「水道水フッ化物(イオン)濃度適正化」
と訳すことは適正か


 フッ化物を虫歯予防に応用しようとする、いわゆるフッ素利用推進派の一部では、その普及宣伝活動においてフロリデーション [ Fluoridation ] という言葉の日本語訳を「水道水フッ化物(イオン)濃度適正化」などとしているところがあります。
 
 簡略な用語とはなりませんが、フロリデーションとは、虫歯を防ぐために、飲料水などに含まれるフッ化物の濃度を有効で且つ安全とされる濃度に調整することを言います。
 
 あえてフッ化物(フッ素)添加としなかったのは、海外では水道水(浄水)に使われる天然の原水に含まれるフッ素濃度が高い場合に、虫歯予防効果と安全性が確保されるとする濃度まで下げ<フッ化物(フッ素)を除去し>、虫歯予防を効果あらしめることがあるからです。
 
 しかし、日本国内の水道水(浄水) の状況を見ますと、まず、水道法及び水質基準に関する省令において給水の要件が定められ、水道水(浄水)のフッ素濃度は0.8mg/L(リットル) 以下となっています。この0.8mg/L という値はフッ化物の種類や給水地域の温度にもよりますが、フロリデーションとしての効果が多少はあると推定できる濃度です。
 
 社団法人 水道協会による1999年度の全国の5550の浄水場(1日平均浄水量 5,000m3 以上の浄水場、5,000m3 に満たない浄水場のみ所有している水道事業者については、代表1箇所の浄水場を対象)の原水の水質分布表(データ平均値)を調べてみました。フッ素の給水要件の限界値 0.8mg/L の近い値で給水している浄水場がどの位あるかを調べるため、一応 0.72mg/L を越えるフッ素濃度を平均値とする浄水場を調べました。すると、全体のわずか 0.36% しかありませんでした。逆に 0.32mg/L 以下のフッ素濃度を平均値とする浄水場を調べますと97.82%になりました。
 これは、もし日本国内で実際にフロリデーションを行う場合には、ほとんどの場合、フッ化物(フッ素)を添加することになり、「フロリデーション」とは日本国内では「フッ化物(フッ素)添加」と考えて特に大きな問題はないと思われ、一般に「フロリデーション」が「フッ化物(フッ素)添加」などと言われる所以であると思われます。
 
 【参考】
  ・社団法人 水道協会
  ・水道水質データベース


 

 「適正化」なる言葉

 「適正」とは───

・「適当で、正しいこと。また、そのさま。」
(三省堂:大辞林)


 また、「── 化」という接尾語は───

「主に漢語の名詞に付いて、そういう物、事、状態に変える、または変わるという意を表す。」
(三省堂:大辞林)

  ───ということで、「適正化」とは、「正しくない物、事、状態」を前提として、「それら(物、事、状態)を正しく変えること、変わること」であると思われます。
 
 とすると、「水道水フッ化物(イオン)濃度適正化」とは、我々が普段飲んでいる水道水の「フッ化物(イオン)濃度」が「適正ではない」という前提で、そもそも「正しい」か議論があることに、既に「フッ素化」は「正しい」という価値判断を下した価値基準に基づいた概念を含む用語という事が言えます。
 
 ゆえに、「フロリデーション」を「水道水フッ化物(イオン)濃度適正化」と和訳し使用している限り、例えば───
 

「あなたは『水道水フッ化物(イオン)濃度適正化』に賛成ですか、反対ですか?」

 ──などという問いかけは、その設問自体が、我々が普段飲んでいる水道水の「フッ化物(イオン)濃度」が「適正ではない」という前提を押しつけ、フッ素化賛成へと誘導する、公平・公正な問いかけとはなり得ないことになります。
 
 この「水道水フッ化物(イオン)濃度適正化」なる訳語による問いかけは、この水道水フッ素化問題を知らない大多数の市民に「水道水のフッ素化」の是非と、そもそも何が「正しい」か判断が分かれる問題について、一部の推進派が勝手にフッ素化が「正しい」とした価値基準に則って「正しくする」ことの賛否を問うという、「フッ素化の是非」と「正しくすることの是非」というの2つの判断を混同させて「フロリデーション」する方向へと誘導しようという、お世辞にも巧みとは言えないのですが、見過ごすことの出来ない方便と言わねばなりません。

 「フロリデーション」の訳

 市民団体として薬害問題に取り組む「薬害オンブズパースン会議」は 2002年、「水道水へのフッ素添加は、危険性が相当な程度で予測され、危険性を上回る有益性はない。」という「意見書」(2002年5月7日)及び「研究報告書」(2002年1月31日)を発表しました。(それぞれ薬害オンブズパースン会議のHPから入手可能)
 これら報告書などで「フロリデーション」を「水道水へのフッ素添加」と表現したことについて、日本むし歯予防フッ素推進会議(日F会議)という団体が「水道水へのフッ化物適正化意見書」(日本歯科新聞 第1282号[2002年6月11日号]) を発表し、以下の如く批判しています。

 さらに、P(筆者註:薬害オンブズパースン会議)意見書では「水道水へのフッ素添加」という表現で書かれているように、ここでも基本的な欠陥を露呈しています。なぜならば、上述のように、フロリデーションの歴史は、無いものを添加するのではなく、天然に飲料水に含まれているフッ化物濃度をう蝕予防に有益な水準のイオン濃度に調節したことから始まりました。

 この「水道水へのフッ素添加」という表現を「欠陥を露呈」と切り捨てた同じ解説記事で、「水道水へのフッ化物濃度適正化」などとしているのは、それこそ「欠陥を露呈」しているのであって、理解に苦しむところです。推進派が虫歯予防のためにフッ化物を応用する運動を広めたいのは分かるのですが、フロリデーションを「水道水のフッ化物(イオン)濃度適正化」などと、一般市民に対してあたかも「あなたの水道水はフッ化物イオン濃度が不適正」として、「適正化」=「フッ素化」する必要があるかのように宣伝するのは、実に不快なやり方であると感じられます。
 
 現在、「フロリデーション」という用語を知る人々は、まだまだ少ないと思われます。日本人の多くが理解可能な表意文字による表記が望まれる訳ですが、まず上述の通り、日本国内で原水に含まれるフッ化物濃度はそもそも低い訳ですから、「フロリデーション」をする場合に、ほとんどのケースでフッ化物を添加しなければならなくなります。確かに、フロリデーションというものが歴史的にはフッ化物の濃度を下げる濃度調整から始まったのでしょうが、それは海外での話であります。国内でフロリデーションを考える際に「フッ化物濃度適正化」という用語が「フッ化物(フッ素)添加」という用語よりも適切かというと、その様なことは全く認められないと思われます。
 
 日本国内において「フロリデーション」は「水道水へのフッ化物(フッ素)添加」とほとんど重なるわけですから、和訳としては「水道水へのフッ化物(フッ素)添加」や「フッ化物(フッ素)(イオン)濃度調整」などが適切と思われるのですが、いかがなものでしょうか。
 
 「水道水のフッ化物濃度適正化」などという用語を和訳として使用することは、皮肉ではないのですが「危険性を上回る有益性はない」と思われるのです。「水道水のフッ化物(イオン)濃度」の「適正化」の前に、むしろ、その和訳の「適正化」が求められているのではないでしょうか。

  

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