水道水フッ素化(フロリデーション)は
世界の常識?
フロリデーション(Fluoridation)とは、むし歯予防のために、飲料水にフッ化物を適切な濃度となるよう添加することを言います。原水に天然由来の高濃度のフッ化物が認められる場合に、むし歯予防のために適切な濃度に下げて(調整して)、前記同様の飲料水供給をすることも、場合によっては、意味します。日本では「水道水フッ化物添加」「水道水フッ素化」「水道水フッ化物濃度調整」などと呼ばれています。 |
添加調整によるフロリデーションは世界36カ国で実施され、また天然のフロリデーション地区をもつ国も45カ国を数え、調整によるもの、天然によるものをあわせると、世界の61カ国でフロリデーションは普及している──と、フロリデーション(水道水フッ化物添加)を推進するグループは宣伝・広報しています。
下記はフロリデーションを推進している団体・個人が宣伝・広報する際に頻繁に引用するイギリスの British Fluoridation Society(英国フロリデーション協会) による資料(1998) の翻訳・編集されたものを引用したもので、これらは当方で再構成(並び替え、色分けなど)してあります。同様のものは、NPO法人 日本むし歯予防フッ素推進会議(日F会議)のサイトにも掲載されています。
資料は「新しいフッ化物応用と健康−8020達成をめざして−」1)から引用させていただきました。
「未報告の人口,国があるため,実際の実施人口は表記数値以上となる」 |
人工、天然によるフロリデーションが世界で61カ国もあることから、しばしばフロリデーションは「世界の常識」とか「グローバル・スタンダード」などと言われて、日本が世界に取り残されているかの如く言われることがあります。しかし、下記の表をご覧頂くと分かりますが、その内実は「61カ国」から受ける印象とはかなり違ったものになるのではないでしょうか。
75%以上 | 3カ国 |
50%以上〜75%未満 | 5カ国 |
25%以上〜50%未満 | 9カ国 |
10%以上〜25%未満 | 11カ国 |
10%未満 | 25カ国 |
詳細不明 | 8カ国 |
下記の表(データ)は、「新しいフッ化物応用と健康−8020達成をめざして−」1)から引用させて頂きました。元の表は各国のデータが地域別(アジア、アフリカ、ヨーロッパ‥‥)になっていますが、当方でフロリデーション人口の全人口に占める割合の高いものからに、順番を並べ直しました。
(The British Fluoridation Society, 1998 を翻訳・編集) |
※上記の表については、(1)原典1)の「タイ」の「フッ化物濃度調整人口」が「1」とあったが、誤植と判断し「0」とした。(2)原典1)には「キリバス」「U.S.S.R.」「フランス」の「人口に占める割合(%)」が示されていないが、フロリデーション人口の割合が「調整による」、「天然による」のいずれかの全人口に占める割合が示されているものについては、それを「人口に占める割合(%)」に充てた。
なお、水道水フッ化物添加の後退した例として「フッ化物応用と健康−う蝕予防効果と安全性−」(日本口腔衛生学会 フッ化物応用研究委員会編, 財団法人 口腔保健協会, 1998年)には以下の記述があります。
オランダでは,ティール市(フッ素化)とクーレムボルグ市(非フッ素化)での詳細な経年調査により明確なう蝕予防効果が得られていたにもかかわらず,国の全ての水道水フッ化物添加は1976年に中止となった.フィンランドのクオピオでは長年,水道水フッ化物添加が行われてきたが,1992年に終了している.スウェーデンは1950年代にノルケッピングで水道水フッ化物添加の実験的事業に成功したが,1973年に国会は本方法の許可法案を廃止した.1981年に,国の健康社会省の諮問委員会は水道水フッ化物添加は安全で効果的であると結論づけたが,まだ法律の変更はなされていない.スイスではバーゼル市だけが水道水フッ化物添加を行っている.これに付け加えるならば、スイスで唯一水道水フッ化物添加を行ってきたバーゼル市では、最近(2003年)中止が決まったそうで、この事については、フッ素毒警告ネットワークの「スイス・バーゼル市がフッ素化を廃止」に詳しくあるので、こちらをご参照ください。また、同様に、韓国でも中止を決定した都市が幾つかあり、このことについては、当医院のサイトをご覧いただければと思います。
アメリカでフロリデーションに反対しているセントローレンス大学のポール・コネット教授(化学)は「飲料水をフッ素化している国はいくつか?」2)と題した記事を Fluoride Action Network のホームページに掲載しています。
この中で、コネット教授は、米国歯科医師会の "Fluoridation Facts(フロリデーションについての事実)" というパンフレット3)の「飲料水のフロリデーションはおよそ60カ国で実施され、3億6千万人を越える人々に役立っている」4)という「英国フロリデーション協会」が出典となっている一文について取り上げています。
この米国歯科医師会のパンフレットは、飲料水のフロリデーションを実施している国を単に「およそ60カ国」とし、このことについてコネット教授は次のような事を記しています(要旨)。
2000年の8月と10月に、アメリカとイギリスの反フロリデーション団体のメンバーが、米国歯科医師会のパンフレット中の「およそ60カ国」の出典となった英国フロリデーション協会にそのリストを請求しました。同協会からは、そのようなリストは存在しないとの回答があり、しかし、2000年の10月に、「近い将来、世界的なフロリデーション状況に関する報告をジャーナルに載せる予定である」という返事を受けました。しかしながら、2年近く経った2002年6月末に、再び英国の団体のメンバーが問い合わせても「作業は進行中で、いずれ発表します」と再び同じ様な返答を受けました。
コネット教授は、何故この基本的な疑問に答えるためにこれ程の時間がかかるのか疑問を呈し、その理由として、そもそも60カ国も水道水をフッ素化(fluoridate)していないからであろう、そのことは誰よりも英国フロリデーション協会自身が分かっているだろう、としています。さらに同教授は──
アメリカとイギリスの反フロリデーション団体のメンバーが英国フロリデーション協会とやり取りしていた2000年の何時の時点かは分からないが、米国歯科医師会は前掲の "Fluoridation Facts" というパンフレットの「飲料水のフロリデーションはおよそ60カ国で実施され‥‥」("Water fluoridation is practiced in approximately 60 countries")という部分を「飲料水のフロリデーション(「天然」と/又は「調整」)はおよそ60カ国で実施され‥‥」("Water fluoridation (natural and/or adjusted) is practiced in approximately 60 countries...")と、若干の修正を加えました。
ウェブスターの辞書によれば、フロリデーションとは「(むし歯を予防するために)飲料水にフッ化物を添加すること」ということで、「フロリデーション(「天然」と/又は「調整」)」とすることは、フロリデーションの定義そのものを変更することになり、ある国において、飲料水中に天然由来の高いフッ化物濃度が認められる地域があれば「フロリデーション実施国」にその国はリストされることになるとし、この定義に従えば、たとえアメリカ国内で飲料水へのフッ化物添加を禁止したとしても、アメリカ国内には飲料水に天然由来の高いフッ化物濃度の認められる地域があることから、フロリデーション実施国に引き続きリストされ続けることになる。そもそも天然由来のものを「実施」するなどと言えるのだろうか?
──と皮肉を込めて批判しています。"Fluoridation(フロリデーション)" の定義をウェブスターの辞書に求めることには異論もありそうですが、しかしながら、このような「フロリデーション」の定義に関わる指摘は、実際、世界中でどれほどの国で「フロリデーション」を実施・採用しているかを考える上で必要なことと言えます。フロリデーションの定義に曖昧な部分のあることは、日本にも関ってくる話です。
日本大学松戸歯学部の小林清吾教授は「新しい時代のフッ化物応用と健康」1)の中で下記の如く述べています。
1945〜1946年,グランドラピッズ市(米国),エバンストン市(米国),ブラントフォード市(カナダ),ニューバーグ市(米国)で開始されたフロリデーションは,その後多くの国々に普及拡大してきた.表1(注)に示されるように,最近の報告(英国フロリデーション協会,1998年)1)では,世界36カ国で添加調整によるフロリデーションが実施されており,普及人口は3億1,700万人にのぼっている.1984年のFDI(国際歯科連盟)の報告では2億4,600万人であったので,この14年間で約30%の増加と算出される.また,天然のフロリデーション地区をもつ国も,タイ(500万人),メキシコ(300万人),スリランカ(280万人)など,45カ国を数える.給水人口数の把握された国々だけで,その人口は3,873万人に及んでいる.以上のように,調整によるもの,天然によるものを合わせて,世界の61カ国,3億5,600万人にフロリデーションは普及している.なお,わが国においても,浄水場5,616中,フッ化物濃度 0.65ppm 以上(〜0.8ppm)の天然によるフロリデーション地区が7カ所2)あるが,上記の表には含まれていない.
|
(注) 前掲の英国フロリデーション協会による1998年の表と同じ内容のもの。但し「人口に占める割合(%)」の高い順では無く、地域別にまとめられたもの。
日本国内の5,616の浄水場中にフッ化物濃度が 0.65ppm 〜 0.8ppm の範囲で認められる所が7カ所あるのは、事実としてはその通りなのかも知れませんが、しかし、果たして「天然によるフロリデーション地区」と認識すべきものかどうかは気になる点です。
「フロリデーション」とは「むし歯予防」を目的とした施策であり、単に地域の浄水場で上記のフッ化物濃度が認められたとしても、それは地域に起因する偶然の産物であり、何ら施策的な位置づけを持ちません。このことは、2003年現在、わが国で「フロリデーション」は行われていない、という一般的な認識によっても裏打ちされています。特にむし歯予防目的で積極的に許容されている訳でもなく、利用する意図も無い中、飲料水に単に上記のフッ化物濃度が認められる事をもって、「天然によるフロリデーション地区」などと言えるのか、疑問を感じざるを得ません。「天然によるフロリデーション地区が7カ所あるが,上記の表には含まれていない」というのも、本来的には実施国として数えられるべきであるかの如く暗に匂わしているようにも感じられ、「いかがなものか」と思われます。
もし仮にこの7カ所の浄水場で上記のフッ化物濃度が測定されたことにより、日本が「フロリデーション実施国」に数えられるならば、コネット教授が指摘するように、何ら「実施」していないにも関わらず「実施国」に挙げられたことになります。
このような事から、前掲の61カ国のフロリデーション状況をまとめた表に戻って考えるならば、天然由来の飲料水中のフッ化物濃度を以てフロリデーション実施としている場合には、それがむし歯予防のために積極的に許容されたり意図的に利用されているかどうか、また、推奨されている濃度範囲にあるものかどうかなどが考慮・検証される必要があると思われます。そして、フロリデーション人口の割合が全人口の半分以下とか、特に10%未満の場合など、また実状の良く分かっていない国などについて、実施国として数えることが適切なのか、考える必要があるように思われます。
前掲の表が示すように、61カ国と言ってもかなりの数が内実を伴わないものと考えられるので、日本国内で水道水フッ素化を実現するための推進活動に「世界で61カ国がフロリデーションを実施している」と宣伝する際には、それぞれの国でどの位の割合がフロリデーションの対象となっているかを示したり、あるいは、せめて「この61カ国の内、フロリデーション人口が全人口の半数以上の所は10カ国前後しかありませんが‥‥」と、実状を正確に反映した説明を載せるべきだと思います。
世界61カ国でフロリデーションが全人口を対象に実施されているかのような、過大な印象を与える情報が流布されているならば、それは詭弁とまでは言わないにしても、実状を正確に反映しないデータを用いていると言えるのではないでしょうか。
このようなデータは、例えば、2001年厚生科学研究「フッ化物応用の総合的研究」による「フロリデーションと健康」というパンフレットなどにも引用されています5)。適切なデータを適切に用いるという観点から、このようなデータの扱いについては改善されるべきなのではないでしょうか。
1) | 「新しいフッ化物応用と健康−8020達成をめざして−」(医歯薬出版(株), 2002年) |
2) | "How Many Nations Fluoridate Their Water ?" ( Paul Connett ) |
3) | "Fluoridation Facts" は最新版が 米国歯科医師会(American Dental Association) の Fluoride and Fluoridation 以下のADA's Fluoridation Factsに掲載されています。 |
4) | 英文:"Water Fluoridation is practiced in approximately 60 countries benefiting over 360,000,000 (three hundred sixty million) people." |
5) | パンフレットには「約60カ国」とある。別頁に34カ国を、その割合(%)を明らかにして掲載しているが、「約60カ国」とした部分については詳しい説明は無い。 |
宮千代加藤内科医院(仙台市)のホームページ