正露丸(セイロガン)とはどんな薬なのか?


 インターネットのホームページに正露丸の記事が多いのに驚きました。また医学的、科学的な記事が少ないのにも驚きました。以下に私が調べ得たこの薬についての知識を書きます。メーカーが流している情報と比較し、ご判断下さい。

 主成分のクレオソートについて

 会社は「正露丸は自然のものから作られているので、安全である」と言っています。確かに正露丸の主成分・クレオソートを作る原料は、ブナなどの木材で、それをいぶして出る煙を冷やして木酢液を作り、その沈殿層が木タールで、木クレオソートはその木タールから分留して作られます。しかし木材が原料だからといって、安全とは限らないと思います。それはタバコは植物の葉が原料だから、けむりに含まれるニコチンやタールも安全だと言えないのと同じことです。

 植物性クレオソートの成分について

 大幸薬品の論文では液体クロマトグラフィーという技術で、22の成分が含まれると報告しています。多い順に、グアヤコール、メチルグアヤコール、クレゾール、フェノールで、他は16種のフェノール化合物などですが、グアヤコール、クレゾール、フェノール(=石炭酸)は劇薬です。これらの成分は決して安全とは言えません。

 グアヤコールについて

 歯医者さんが虫歯の治療の時、歯髄の神経を麻痺し、その部を消毒するときに用いるもので、こぼれて口の中の粘膜にふれないように注意して用いるものです。今は他の薬が多く使われるようになり、あまり使われなくなっています。刺激性、毒性の強いもので、致死量は約2グラムです。大幸薬品の論文には、グアヤコール類は原料クレオソート中の53%となっているので、1日、セイロガンを9粒服用すると、0.21グラムの摂取となり、この量は致死量の10分の1になります。従って、正露丸の連用は危険です。特にお年寄りには危険性が高くなると思います。

 クレゾールについて

 だれでも知っている消毒薬成分です。あの猛烈なにおいはかつての医療機関ではあたりまえでした。現在ではその刺激性や、毒性のため、ほとんどの医療機関ではもう使われていません。致死量はグアヤコールとほぼ同じです。残念ながら、日本で自殺用に使われることの一番多い消毒薬がクレゾール石鹸液なのです。皮膚や粘膜からも吸収され、平成8年7月1日、青森県五所川原市の公園の滑り台で遊んでいた幼児たちが、水たまりにまかれていたクレゾール石鹸液に濡れて、やけどや意識混濁を起こした事件がありました。

 フェノールについて

 石炭酸のことです。クレゾールよりさらに古い時代の消毒薬でした。ジョセフ・リスター(1827−1921)という英国グラスゴー大学外科学教授が手術の時、手や傷の消毒に用いて感染を防ぎ、以後、使用されるようになったのは有名な話です。1880年以来、ロベルト・コッホら細菌学者によって病原菌が次々と発見されました。しかし同時に医師の手はフェノール(2%溶液)によって荒れ、うろこ状になりました。この問題を解決しれたのは1890年、米国ジョンスホプキンズ大学の外科医ハルステッドで、彼は薄いゴム手袋をグッドイアー・ゴム会社に作らせて手術の時に使い、以後、フェノールによる皮膚荒れはなくなったのです。正露丸の問題は、皮膚や粘膜への刺激性の他に、フェノールには発ガン性が証明されていることです。このような医薬品の製造・販売をまだ続けていていいのでしょうか。
 (Boutwell R. K. and Dorothy K. Busch. The tumor-promoting Action of Phenol and Related Compounds for Mouse Skin. Cancer Research; Vol.19, 413-427,1959.)

 キシレノールについて

 フェノール(石炭酸)にメチル基が二つついた構造をしていて、飲んだり、皮膚についたりするとやけどを起こす毒物です。産業廃棄物の処理場付近の土壌検査で、有害物質として検査対象になっています。
 (参考;『環境ホルモンと日本の危機』小島正美、井口泰泉著、東京書房、平成十年、「廃棄物処分場の浸出液から溶出」「フェノール類を多く検出」)


 結局、日露戦争の後から第二次世界大戦までの、有効な医薬品がない時代に、胃の中で有害細菌を殺してしまおうという発想で作られた、古い、毒性の強い医薬品と言わざるを得ないと思います。確かに成分の一つである、エチルグアヤコールに腹痛を止める作用があるようですが、新しくて、有効で、毒性が少ないことが証明された医薬品が薬局でいくらでも入手できる時代に、このような危険な医薬品がなぜ売られ続けているのか理解に苦しむのです。



 代わりに何を使えばいいのか?

 1)腹痛なら──腹痛を和らげる成分として臭化ブチルスコポラミンがあります。これを含んだ大衆薬にはストマオフ糖衣錠(ゼリア新薬)、ナルコリンカプセル(佐藤製薬)、ブスコパンA錠(日本ベーリンガーインゲルハイム)があります。
 塩酸パパベリンも保険薬でも使われている成分で、これを含んだ大衆薬には、エジオン胃腸鎮痛鎮痙薬(エスエス製薬)、ニッスイロータミン(日水製薬)、ファイトップ(ジェービーエス製薬)、リンデルカプセル(大正製薬)があります。
 他に成分として「ロートエキス」を含む大衆薬も腹痛に有効なはずです。薬局で「胃腸鎮痛鎮痙薬」でそのような成分を含んだものを下さいと言えば探してくれるはずです。
 2)下痢には──大腸の運動が亢進した状態は腹痛を引き起こします。従って腹痛を和らげると、下痢は軽くなります。しかし下痢は有害な大腸内容物を排出する役割もあるのですから、腹痛を和らげる薬を過剰に服用し続けるのはよくありません。下痢で怖いのは脱水が悪化することです。脱水を予防することは下痢の場合には腹痛を和らげる以上に重要なことです。脱水の症状とは、のどが乾く、おしっこが濃い色になる、あるいは出なくなる、目や口の中が乾燥するなどです。これは命にかかわることなので、医療機関を受診して、点滴をしてもらうことが必要です。脱水を予防するには、塩分を多少含んだ飲み物、例えば、味噌汁、おつゆ、あるいはスポ−ツドリンクなどを少量ずつ、頻回に飲むことです。そして尿が出ていればまず脱水は防げていると考えていていいでしょう。

 文献;「下痢止め大衆薬・セイロガンは安全か?」加藤純二、
     小塩玄也:宮城県医師会報、613号、1997年
     2月.87〜88ページ」


木酢液について、最近、次のようなe-mailをいただきました。

 「有機栽培における防虫等の処置として木酢液がよく使用されています。その他にもアトピーを治すのにお風呂に入れたり、食用の動物にも与えていたり、健康法とか言っていたりと、いろんな話を耳にします。
 木酢液の説明等には、6ヶ月〜1年間、静置熟成して沈殿するタール分、上に溜まる軽油質等、発癌性のあるものや危険性のあるものは取り除いてあると解説されています。一方、木酢液の主成分がクレオソートであると言われたり・・・。きちんとした知識がほしいのですが、いろいろな情報が飛び交う中で判断が困難な状況にあり、このような質問をさせていただいております。」

 回答⇒ 炭焼きの煙を冷やすと液体がとれます。とる方法は、煙突を途中で下方に曲げてまた上方に上げます。その下方に向いた屈曲点に小さな孔を開け、そこからチューブで下のバケツに液体を溜めます。普通、バケツは炭焼き窯を覆う小屋の中の雨水が入らない場所に置きます。バケツに溜まるのはやや黒っぽい酸っぱい焦げ臭い液体です。これを静置すると下方にドロドロとして油状の層ができます。これを「木タール」と呼びます。医薬品、化学工業の原料、木材の防腐剤、消臭剤などに使われます。上の水溶液を(粗)木酢液と呼び、本当の木酢液は粗木酢液を蒸留したものです。
 上層の粗木酢液と下層の木タールはきれいに分離している訳ではないので、粗木酢液には木タール成分が混入しています。蒸留しても木酢液には、主成分である酢酸にグアヤコールやクレゾール、石炭酸(フェノール)などが混入します。医薬品、農薬のなかった時代には、木酢液は価値ある廃物利用だったのでしょう。アルカリ性の土壌を酸性にしたり、アブラムシ、青虫退治に用いるならともかく、風呂の水に混入するのは良くないと思います。かえってアトピーを悪化させる可能性が高いと思います。(平成13年4月16日)



 秋のある日、宮城県の北方にある温泉町・鳴子町へ行きました。鳴子温泉郷を過ぎて、さらに国道47号線(旧北羽前街道)を西へ向かうと、鳴子峡になり、そこを過ぎると山形県との境の中山峠で、その手前がが中山平(なかやまだいら)温泉です。そのあたりが江合川の源流です。ふと道路わきに炭焼き小屋を見つけました。今でもこの辺では炭焼きをしているのです。

 めずらしいので、仕事中のおじさんに小屋を見せてもらいました。そしたら何とそこで木酢液を作っていたのです。小屋の屋根の後方に煙突があり、その曲がった形でそれが分かりました。曲がった個所から下方へ細いチューブが下がっています。



 そのチューブは小屋の中の後ろの隅に置かれていたバケツにつながっていて、バケツの中には黒ずんだ液体が溜まっていました。これが「粗木酢液」です。おじさんはそれを「白菜やかぶなどの野菜に葉面散布をして、アブラムシ、イモムシ退治に使うそうでした。またそれは根こぶ病の予防になったり、野菜の成長も助けるし、豚小屋から出る堆肥にかけて臭い消しにも使うと言っていました。
 炭焼きは10月から4月にやるそうです。くぬぎ、なら、ぶな、くりなどの木を使い、桐は値段の高い炭になるそうです。土がまにはいろいろな大きさのものがあり、小さい石がまだと1日で火を消し、作業は忙しく、大きな土がまだと4貫・50俵もの炭が一度にでき、その代わり、火を着けてから消すのは1週間後、土をかけて火を消すそうです。

  

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