『買ってはいけない』論争の「正露丸」について


 『週刊金曜日』の別冊ブックレット『買ってはいけない』の中に、正露丸(セイロガン)が取り上げられている。出版後、『週刊金曜日』が行ったメ−カーへのアンケートに対して、正露丸のトップメーカー・大幸薬品は強い抗議の回答を寄せている。また日垣隆氏は『文芸春秋』の記事や『買ってはいけないは嘘である』という本の中で、反論を書いている。
 小生はかつてこの「論争」の場に「正露丸の製造・販売の中止を」という記事を載せたことがある。(209号、1998年3月6日)今回、会社の抗議と日垣氏の反論を読み、感じたことを書かせていただく。

 まずこの医薬品は漢方薬成分を含む。ただ小生が問題にするのは主成分・木材クレオソート(日本薬局方クレオソートとも呼ぶ)である。会社は三好基晴氏が正露丸の主成分・クレオソートを石炭由来と書いたことについて抗議している。この点については編集部は訂正・謝罪記事を掲載した。しかしそれは木材クレオソートが安全だということではない。大幸薬品の研究所の報告によると、木材クレオソートの成分は多い順に、グアヤコール、メチルグアヤコール、クレゾール、フェノール(石炭酸)などである。
 グアヤコールは歯科で齲カ・根管に浸潤させ、消毒と神経麻痺に使われ、「もし口腔粘膜に付着した場合は、ただちにふき取り、エタノール、グリセリン、植物油又は多量の水で洗う処置を行う」と注意書きがついた劇薬である。またフェノールには発癌性が証明されている。

 会社は「国立医薬品食品衛生研究所化学物質情報部の調査においてはフェノール、クレゾールは内分泌攪乱物質と認められていない。また、これらの物質は、一般正常人の体内にも食物(タンパク質)の代謝産物として通常的に存在するものである」と書いてある。
 大幸薬品に質問したいが、「  」内の「また、」以下の文章は国立研究所の見解なのか、それとも会社の言い分を国立研究所の調査の結果の後に付け加えたのか。
 いずれにしてもこの部は誤謬で、フェノールもクレゾールもかつて医療機関でよく使われたが、現在はその刺激性・腐食性のためほとんど使われなくなった消毒薬成分である。これらが通常的に体内に存在するとは考えられない。この部は日垣氏も上記の反論記事の中にそのまま引用しており、首をかしげてしまう。

 次に会社は「O−157に感染しても、正露丸の成分である日本薬局方クレオソートは小腸の粘膜を保護する作用がある」、「O−167のベロ毒素産生そのものを抑制する作用がある」と、論文と学会発表の要約を載せている。しかしグアヤコール、クレゾール、フェノールには皮膚粘膜への腐食作用があることは周知のことで、はっきり言って、上記の論文と抄録は信用できない。

 また会社は「医薬品としての安全性、有効性に何ら問題がないため、改善や変更を行うことはない。書籍(『買ってはいけない』)を回収いていただくことを要望する」と言い、日垣氏は「大幸薬品も、週刊金曜日をただちに告訴すべきである」と言う。
 しかし最近、浜六郎医師は「正露丸の安全性について」という詳細な論文を発表し、「短期に使用することも問題があると考えられ、医薬品としての価値は認められない物質であり、中止すべきと結論付けられた」と報告している。(『TIP誌−正しい治療と薬の情報』14巻、8・9号、平成11年9月)

 海外旅行をする日本人の多くがこの医薬品を用いており、海外の医師から奇異に思われている。

 小生は正露丸の危険性をさらに訴え、大幸薬品をはじめとするクレオソート、フェノール含有製剤を製造・販売している各社に対し、製造・販売の中止を求めていくべきであると考える。

(『週刊金曜日』第292号、平成11年11月19日発行の「論争」記事より。)

  

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